大会組織委員会元理事の高橋治之氏(時事通信フォト)

大会組織委員会元理事の高橋治之氏(時事通信フォト)

ステーキ店常連の議員

 そこから一転、講談社がスポンサーを辞退すると決めたのは2018年になってからだ。原因はコンサルタント料名目の高橋への支払いスキームだった。捜査関係者が打ち明ける。

「いつの時点なのか、そこがやや曖昧ですが、講談社側はKADOKAWAから高橋のスキームを提案されたらしい。それがトータル5億円の資金工作です。うちKADOKAWA側が2億8000万円のスポンサー料と7000万円のコンサル料、講談社側が1億2000万円のスポンサー料と3000万円のコンサル料という内訳。さすがにそれには危なくて乗れない、というのが講談社の判断だった」

 スキームのうちコンサルタント料が、五輪のスポンサーになるための高橋への賄賂にあたる。仮に講談社側が乗っていたら、KADOKAWAと同じくアウトだったに違いない。KADOKAWA側もうすうす危ないと感じていたのであろう。五輪に関するコンサルタント料名目だけでは、請託と受け取られかねない。そこで、「大阪万博」や「ラグビーW杯」「IR(カジノを含む統合型リゾート)構想」という3つの項目に支払い理由を変更している。今となっては、それが姑息な隠ぺい工作としか映らないが、それほど危険なスキームだったといえる。

 KADOKAWAに経緯を訊いたが、「コメントを控えさせて頂きます」(広報部)と回答。一方の講談社は「東京オリンピック・パラリンピックのオフィシャルサポーター契約を社内で検討したことはありますが、ビジネス上の理由から見送りました」(広報室)と答えた。

 そして高橋の提案を断わった講談社は難を免れ、KADOKAWAは贈賄罪に問われた。9月14日、特捜部のメスは角川歴彦会長にまで及んだ。しかし、ことはこれだけで終わりそうにない。

 最大の注目は、角川とも密会した森の登場だ。今のところ、AOKI200万円の現金授受や接待、贈答品だけで首相経験者を検挙するのは難しい、という声が大勢を占める。が、検察には、決定打となる隠し球があるのではないか、という向きもいる。

 なにより捜査はこの先まだまだ続く。今のところ現役の電通幹部も摘発されていない。どこまで事件は広がるのか、なかなか予測がつきにくいのである。

 高橋が経営する高級レストラン「ステーキ そらしお」(8月末に閉店)では森と同じく、菅義偉政権のデジタル担当大臣、平井卓也も常連だった。電通のサラリーマンから国会議員に転身した平井は、東京五輪とも無縁ではない。

「平井さんは新型コロナウイルス対策として、五輪で海外から入国した人を追跡するシステムを導入すると言い、電通にそれをやらせようとした。そこも注目されています」(事情通)

 電通ほどではないが、五輪で巨大な利益をあげてきた企業は数えきれない。東京地検特捜部はさまざまな角度から捜査を進めている。

【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』『墜落「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』など。

※週刊ポスト2022年9月30日号

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