2022年初夏、千璃さんの学校を訪れた時、きょうだい4人で。

2022年初夏、千璃さんの学校を訪れた時、きょうだい4人で。

■「自分の決断が正しいのかという葛藤が、常にある」(倉本さん)

――倉本さんもまた、岸田さんに大きな共感を抱いていたという。

倉本:私の中にはやはり、家族の中に障害者と介護する人がいる時、自分たちの家族という単位だけで解決させなくちゃいけない、みたいな考え方があって、ずっと苦しみながらその中でやってきたんです。

 千璃が寮生活に入る時は「今のままだっていいじゃない」っていう意見もあって、どうしようか何か月も悩みました。とても苦しかったし、いなくなったらもう片腕をもぎ取られるような寂しさだった。

 だから奈美ちゃんが、弟の良太くんをグループホームに入れるという決断が果たして正解なのかどうかという葛藤をしているのが、状況は違ってもすごく共感できるんです。

 そういう時期を経て今は「視覚障害者の教育というものを専門家に任せられるのだったら、私はその空いた時間で世の中に何かお返しをしよう」と思えるようになりました。

 私がずっと鬱々と考え続け、感じてきたことを、奈美ちゃんがスパっと言ってくるので勇気をもらっています。「そうなの、私が言いたかったのはこれだった!」って。

―― そして、一緒に暮らすのが幸せな家族もあれば、離れて暮らす方が幸せな家族もあると思う、と岸田さん。

岸田:私も、家族だけで支援している時はめちゃめちゃつらかったんですよ。自分が倒れたらもう弟や母どうなるかわからないとか、家族だからこそ好きなんだけど腹が立つことも多くて。「なんでわかってくれないのよ」ってなっちゃうこともあった。

 今、祖母は介護施設に、弟はグループホームに、母も私もそれぞれ一人暮らしをしています。それを私は「戦略的一家離散」って呼んでいるんですけど。

倉本:その言葉、すごくわかります!家族皆が健康であればあたりまえにうまくいくことができない。それが蓄積していく辛さ…。だからあえてそうやって離れる時間を作るのが、家族全員の心身の健康のためにいい。

 日々何もないわけじゃないけど、トータルでは笑って過ごせるような感じであればいいんじゃないかと、私も今は思っています。

岸田:戦略的一家離散にはお金がかかるのも事実。弟のグループホーム入所のために300万円くらいする車を買ったし、ドライバー代やガソリン代などを含めると使ったお金は500万円弱で、祖母の認知症介護施設のお金も月20万円くらい。

 あいかわらず経済的には大変だけど、今はめちゃめちゃ楽しいですよ。家族のエピソードをエッセイにして、それを読んでおもしろいって思ってくれた人がnoteの有料購読をしてくれたり。それで何とかなっているんで、こんなにも嬉しいことはないです。

倉本:良い循環ですよね。

関連キーワード

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン