「『ありがたさ』と『誰かを助けたい』って気持ちを同時に持っている人は、本当に本当に信じられる」と岸田奈美さん。
■「伝えること自体に、自分が救われている」(岸田さん)
岸田:翻訳してくださってすごく嬉しかったのが、私の持っている「感情を伝えたい」っていうところをとても大事にしてくださったこと。ボルボ買ってこうなりました、終わり、っていう情報を伝えるのはわりと誰でもできると思う。
でも私はやっぱり感情の動きを一番伝えたくて。ボルボを買うのに400万円近くかかるって知った時の焦り、それを買った時の解放感、でもそこから「改造できるとは言いません」と言われた時の絶望、捨てる神あれば拾う神ありみたいな感じで、こんな状況でも「助けて」と声をあげた時にその声が届いて助けてもらえたっていう嬉しさ…。
そのジェットコースターみたいな感情を本当に伝えたいために書いた、日本人にしか伝わらないだろう細かい例えを、英語圏の文化を持つ人にも伝わるように魔法みたいに訳してくださって、神かと思いました。
倉本:父が関西出身なので、奈美ちゃんの書く文章に、オチみたいなものがテンポよくすごくふんだんに含まれているところも大好きなんです。あの突き抜けたユーモアに救われている人も多いような気がします。
岸田:チャップリンは「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」って言っているんです。私の場合は「自分で抱え込んだままなら悲劇なんだけど、それを誰かに笑って聞かせれば喜劇になる」って思っているんです。
伝えること自体に救われているから、これがなければ生きていけないですね。呼吸みたいなもの。
基本、私の書く原動力ってもう大体寂しさとか痛みとか悲しさなんですけど、その体験を落語みたいに何度聞いても笑えるように語りたい。
だからどうやって話したら笑わせられるだろうとか、「その話、もっと聞きたい」と言ってもらえるか、すごく考えながら書いています。
■「伝えたいこと、というより、下心があります(笑い)」(岸田さん)
最後にお二人に、「何を伝えたくて、障害を持つ家族のことを書き続けているのか」をズバリ聞いてみた。
岸田:(考え込んで)さっき言ったようにたぶん、自分を励ますために書いているんでしょうね。あと、私は父を心臓病で突然亡くした経験があるので、「人はいついなくなるかわからない」という思いがあるんです。
年齢から言うと、私が弟より先に死ぬ確率が高いので、その時に頼りにできるような人が1人でも多く彼の周りにいて欲しいなと思うんですよ。弟はずっとグループホームの中だけで暮らしているわけじゃなくて、コンビニに行くし、水泳もする。障害なんて今まで考えたこともないって人と外でたまたま巡り会った時に、その人がちょっとでも「岸田さんのnoteにこう書いてあったから、こうしたらいいのか」って思って接してくれたら、すごく嬉しい。「伝えたいこと」というより、もはや下心というか(笑い)。
説得しようすると人ってやっぱ変わってくれないんですよ。私達のために何かしてくださいって説得したとしても、人って多分説得されると「なんかしんどいな」って思っちゃう。
さっき美香さんが翻訳に手を挙げてくださった理由が、「noteに書かれていることに共感したから」って言ってくれたように、人を動かすのは「共感」なんですよ。障害者の家族がいるとかいないとかに関係なく、みんなが持っている感情に訴えかけて共感してもらうことが大事な気がします。