国家的な行事には協力しましょう?
暴力団組織では、オリンピックやサミットなどの行事の際、たとえ前もって通達がなくとも、事件は起こさないという不文律のような空気があると幹部は説明する。実際、東京五輪の開催時、六代目山口組と神戸山口組との間では対立が再燃しかけていたが、大きな事件は起きなかった。
「通達といえば、あの時期は、ワクチン通達が話題だった」と幹部は振り返る。「警察よりコロナにかかるほうが怖かった時期だ。ワクチンを打つように、打った組員のリストを出すようにという通達がきた。まさかそんな通達が来ると笑ったが、下の者は適当に報告しても、各組織の親分たちはそうはいかない。きっちり報告しただろう」
通達は組事務所にファックスで送られてくることもあれば、組長や幹部に電話で伝えられることもあるという。末端の者はその内容をLINEで知らされているようだ。
ただ六代目山口組では、東京パラリンピック開催時、簡単な文章で「絶対にトラブルは起こさないようにという通達があった」とも別の暴力団組員は話す。
東京五輪の前、神戸山口組では離脱者が相次いでおり、すでに神戸山口組を離脱していた中核組織の五代目山健組中田浩司組長が、六代目山口組に復帰するという噂が流れていた時期でもある。通達にはこの水面下の動きに、わずかな水も刺されないようにという含みがあったのかもしれない。その数週間後、五代目山健組は六代目山口組に復帰し、幹部に就任。神戸山口組では激震が走ったといわれている。
「2016年5月の伊勢志摩サミットでは、その前年の8月に分裂し対立抗争中だった六代目山口組と神戸山口組が双方、サミット終了まで抗争禁止の通達を出したのは有名な話だ。一時的な休戦で、サミット終了後すぐに、神戸山口組の直系組織の幹部が射殺される事件がおきたがね」と幹部は振り返って、こう続けた。
「ヤクザはもともと愛国心が強いんで。国家的な行事には協力しましょうってことだ」