国際情報

【現地レポート】ベトナム戦争中の民間人殺害事件で新証言「韓国軍は味方側の村を焼き払った」

(写真/村山康文)

8月上旬、韓国政府を訴えた裁判の口頭弁論出席のために韓国へ渡航したグエン・ティ・タンさん(左)と、おじのグエン・ドゥック・チョイさん(クアンナム省、2022年9月)

 ベトナム戦争中に起きた韓国軍による民間人殺害事件について、韓国政府に賠償を求めて係争中のベトナム人女性グエン・ティ・タンさん(62歳)。去る8月上旬、タンさんのおじが、ベトナム人として初めて韓国・ソウル中央地裁で当時のことを証言した。韓国社会で50年近くも“タブー”とされてきた、ベトナムでの韓国軍による加害の実態が、少しずつ明らかになりつつある。10数年にわたり同事件の取材を続けるフォトジャーナリストの村山康文氏が、ベトナムに渡りタンさんらに話を聞いた。

 * * *
 過去20年以上、毎年1〜4度はベトナムを訪れていた私にとって、およそ2年半ぶりとなる2022年8月下旬からのベトナム滞在。その旅は、屋台での法外な請求で幕を開けた。

 夕方、予約していたホテルに到着した私は、休む間もなく、近くの屋台に夕食を取りに向かった。店員に勧められるまま席に座り、「ミエンガー(蒸し鶏が載った春雨スープ)」を注文。もちろん、最初に商品の値段を確かめていた。

 しばらくして出てきたものは、1杯の「ミエン(春雨スープ)」と、別皿に山のように盛られた鶏肉だった。「この店は鶏肉を別皿で出してくれるのだ」と思い、このとき、別段気に留めることもしなかった。

 食事を終え、清算のために店員を呼ぶと、注文した1杯の「ミエン」の代金と、別皿に盛られた鶏胸肉の金額(最初に確認した約5倍)が請求された。注文したもの以外には箸を付けず突き返せば良かったのだが、別皿の鶏肉に箸を付けていた私は、「やられたぁ」と、頭を抱えて苦笑した。

 長年ベトナムに住む日本人の友人にその話をしたら、「ベトナムと長い付き合いでもやられるんですか? 相当感覚が鈍っていますね」と、ケタケタと笑った。到着直後、私は、以前と変わらないベトナムに洗礼を受けた。

2年半ぶりにベトナムの地を踏んだ(写真/村山康文)

国慶節(9月2日)を間近に控え、ベトナム国旗が翻るホーチミン市内。コロナ以前はあまり見られなかった落書きが店舗のシャッターに目立つ(ホーチミン市、2022年8月下旬)

新型コロナ「ロックダウン」の爪痕

 一方で、私のなかで大きく変わったベトナムの現実があった。

 20年以上の付き合いになるバイクタクシーとシクロ(ベトナムの3輪自転車タクシー)のドライバーをしていた友人3人が、新型コロナウイルスに感染し、この2年半の間に相次いで亡くなっていたのだ。彼らはいずれも、ベトナム戦争時代、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)などの北側勢力と戦った、ベトナム共和国(南ベトナム:当時)軍の元兵士だった。激戦を生き抜いてきたにもかかわらず、今回、南部ホーチミン市で蔓延した新型コロナウイルスには勝てなかった。

ベトナムの友人が新型コロナで亡くなっていた(写真/村山康文)

新型コロナウイルスに感染し、昨年死去したバイクタクシーの友人のひとり。以前、私が撮影した写真が遺影で飾られていた(ホーチミン市、2022年8月)

 彼らの死のことを教えてくれた、別のある南ベトナム軍元兵士は、辺りに聞こえないような小さな声で、ゆっくりとこう話した。

「今回、新型コロナウイルスでのホーチミン市で行われたロックダウン(都市封鎖)は異常だったよ。政府は庶民の意見に聞く耳を持たず、軍を使って圧力だけで人びとを抑え込んだ。補償もろくになく、病院に行くこともできず、新型コロナに感染したこの付近の貧困層は、次々と死んでいったんだ。約2か月間続いたロックダウン中に、糖尿病を患っている人らは、治療も受けられず、手の指を切断し、足を切り落とした。解除になった今後も、この影響はまだしばらく続くと思うね……」

 彼が話した現実は、「軍を使って抑え込んだのは新型コロナウイルスだ」という、私が日本で確認していたベトナム政府の見解とは大きくかけ離れていて、ショックを受けた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン
韓国・漢拏山国立公園を訪れいてた中黒人観光客のマナーに批判が殺到した(漢拏山国立公園のHPより)
《スタバで焼酎&チキンも物議》中国人観光客が韓国の世界遺産で排泄行為…“衝撃の写真”が拡散 専門家は衛生文化の影響を指摘「IKEAのゴミ箱でする姿も見ました」
NEWSポストセブン
 チャリティー上映会に天皇皇后両陛下の長女・愛子さまが出席された(2025年11月27日、撮影/JMPA)
《板垣李光人と同級生トークも》愛子さま、アニメ映画『ペリリュー』上映会に グレーのセットアップでメンズライクコーデで魅せた
NEWSポストセブン
リ・グァンホ容疑者
《拷問動画で主犯格逮捕》“闇バイト”をした韓国の大学生が拷問でショック死「電気ショックや殴打」「全身がアザだらけで真っ黒に」…リ・グァンホ容疑者の“壮絶犯罪手口”
NEWSポストセブン
渡邊渚アナのエッセイ連載『ひたむきに咲く』
「世界から『日本は男性の性欲に甘い国』と言われている」 渡邊渚さんが「日本で多発する性的搾取」について思うこと
NEWSポストセブン
“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン