「こんな世界があるのかと、知らない世界をのぞくドキドキがありました」(佐津川) (C)「夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~」製作委員会
タイトルをはじめ、文字による作品情報だけだと本作は何やらかなり剣呑そうなものだ。「夫婦交換」など、平凡な生活を送っている身からすれば違う世界の話のようだし、この世界に触れるのはタブーのような気もする。しかし本作の語り口は極めてポップだ。そしてその根底には、決してカジュアルには他言できない夫婦の切実な想いが感じられる。
「夫婦交換」とは、自分のパートナーが誰かに抱かれることで、自身の中に眠っている嫉妬心を呼び覚ますものらしい。筆者には結婚経験がないものの、“嫉妬心を刺激する”というのにはなるほどと思った。
人と人との仲が深まれば深まるほど、強い信頼感が生まれ、それに比して嫉妬心は薄れていく。そこで失われているものは確実にあるだろう。本作はパートナーとの関係を、ひいては人間関係を見直すことにも繋がる作品のようである。
だが本作の楽しみ方は、物語の設定や展開だけではない。主演の佐津川の演技を堪能できるというところにもある。彼女のコミカルな演技が、ともすると重くもなりがちなテーマに軽やかさをもたらし、ときおり見せるシリアスな表情が、物語や志保というキャラクターの持つ切実さを視聴者に訴えかける。
本作は登場人物が少ないことや、志保の一人称視点の物語とあって、さながら“佐津川愛美・オン・ステージ”のようなものが展開しているところだ。彼女の一挙一動だけでなく、巧みな話芸にも魅せられる。
そんな佐津川は意外にも本作が初の連ドラ主演。10代でデビューし、人生の半分以上を俳優として過ごしてきた彼女は、これまでに膨大な数の作品に出演してきた。少し前にはレギュラー出演していた朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合)の放送が終了したばかりだ。
彼女が演じた我の強い猪野清恵というキャラクターは、多くの登場人物が入り乱れる物語の中でも埋没しないものだった。限られた出番やセリフだけでキャラクターの背景までをも垣間見せる佐津川だからこそ演じられる人物だったように思う。
佐津川は“主体性”を持った女性の役がよくハマる。それは本作の志保役もそうだ。彼女は決して受け身でなく、自ら選択し、決断する。背に腹はかえられぬ状況で「夫婦交換」に臨んだが、選んでいるのは彼女自身だ。
さまざまなジャンルの作品であらゆるタイプのキャラクターを演じ、観る者を魅了してきた佐津川だが、ほかにどんな引き出しがあるのだろうか。この『夫婦円満レシピ』でまた新たな顔を見せてくれそうな気がする。
文・折田侑駿
「夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~」(テレビ東京系、毎週水曜深夜0時30分放送、Paravi 毎話独占先行配信中)「なかなか刺激的な題材ですが、それぞれの悩みを通して少しでも前向きな気持ちになる作品にできるよう、精一杯演じさせて頂きます」(佐津川)(C)「夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~」製作委員会

