減塩は「昭和」の指導法
大脇:高血圧治療では食生活の見直し、なかでも「減塩」指導が行なわれますが、まったく効果がないのでやめたほうがいい。そもそも食べ物は関係がありません。それは厚労省の「食事摂取基準」にも書かれています。
和田:そうかなぁ。医者って大体、「食事は関係ない」と思いたがるし、実際証拠がないのは事実だけど、塩分はともかくとして食事は大いに関係があると信じています。
大脇:どこにも何も関係ないというわけではなく、大きな死因の構成を左右するほどではないということです。減塩療法で高血圧患者の数値が下がったとのエビデンスはあっても、心筋梗塞や脳卒中が減ったとのエビデンスはありません。
つまり、減塩の健康効果は何一つ証明されていない。それなのに、日々の食べ物を美味しくなくするのはもったいないし、無駄なことだと思います。ましてや、それを医師が一生懸命教えて、「大事だから守らないとダメ」などと患者を叱るみたいなことをするとは何事かと。
和田:減塩については、日本人の死因のトップが脳卒中だった時代に、当時の医者が血圧を下げろと厳しく言っていたことが背景にある。しかし今、血圧が140や150で命を落とすほどの脳内出血なんて滅多に見かけません。それは、日本人のたんぱく質摂取量が増えたことによって、血管が強く、破れにくくなったからと推定できます。
大脇先生の指摘するように、エビデンスのない減塩を患者にさせるのは、QOL(生活の質)に直接関わる。歳を取ると味覚が鈍くなり、しょっぱいものが余計に好きになる人が多いのに、それをやめろと言うのは酷です。主観的にハッピーであるほうが免疫機能も高まるとの研究結果もあります。もう少し緩い健康常識で、我慢せず、ストレスフリーのほうが健康にはいい。
(後編につづく)
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。近著に『80歳の壁』(幻冬舎)、『老いが怖くなくなる本』(小学館刊)など。
大脇幸志郎(おおわき・こうしろう)/1983年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。近著に『運動・減塩はいますぐやめるに限る! 「正しい健康情報」の罠』(さくら舎)、『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』(生活の医療)など。
※週刊ポスト2022年10月21日号