ユーミン世代の私も、曲を聴くと情景が浮かんでくる。このベストアルバムに収録された全51曲のうち、そのほとんどを口ずさむことができるし、口ずさんでいると歌詞の情景があるイメージ画像のように浮かびあがり、聞いていた当時の記憶が蘇ってきたりする。今なら笑い話にしかならないような事や、取るに足らない些細な思い出は、曲を聴くまで頭の隅に追いやられていたものだが、思い出すとなんだか妙に昔が懐かしくなる。
曲によっては、聞いているうちにあの時はこうだったなとほのぼのした気分になったり、この時は楽しかったと思い出されてくるのだ。よくよく思い出してみると、当時の自分にとってはさほど楽しい経験でも、それほど良い出来事でもなかったことなのに、それが美化されたように思い出す。「バラ色の回顧」という心理的傾向だ。人にはこの傾向があるといわれるが、ユーミンの曲を聴いていると、なぜか過去の記憶が美化されていくような気がする。
思い出すのは「エピソード記憶」と呼ばれているもので、個人的な出来事や思い出に関する記憶だ。感情を伴う記憶であり、映像として残りやすいといわれている。ちなみに情景というのは、人の心に強く残ったり、ある感情を感じさせる景色や場面のイメージのことをいう。曲による情景やイメージがつらかったり悲しかったエピソード記憶の緩衝材になって、ノスタルジックな気持ちになるのだろう。
ヒット曲のタイトルのように「あの日にかえりたい」とは思わないが、アルバムを聴きながら、過去を懐かしむことができるのもユーミンの曲ならではかもしれない。