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子育て支援制度に形骸化の懸念 利用者の肩身狭く若手が二の足を踏む現状も

東京都が育児休業の新しい愛称を募集し「育業」に決まったと発表する小池百合子知事(時事通信フォト)

東京都が育児休業の新しい愛称を募集し「育業」に決まったと発表する小池百合子知事(時事通信フォト)

 日本ではいま、いたるところで人手不足、労働力不足だ。その克服のために一億総活躍だの、女性の活躍推進だのと政府は旗振りし、企業には様々な制度を導入するように推進しているが、現実の職場ではうまくまわっているとは言いがたい。少子高齢化の問題も抱えている日本では子育て支援も推奨されているが、実際にその支援制度を利用すると、子供を持つのをためらうようなことが多々、起きている。ライターの森鷹久氏が、「子育て支援制度」の運用実態についてレポートする。

 * * *
「あれが子育ての実態なら、そこまで頑張って子育てと仕事を両立させる必要があるのかと思いますよね。女性の活躍というより、女性は更に頑張らないといけない、そう感じてしまいます」

 都内の中堅ゼネコンメーカーに勤務する沢井里香さん(仮名・20代)は新婚で、可能であれば職場の子育て支援制度を使って、早々に子供が欲しいと願っていた。しかし、実際に支援制度を利用する女性上司の実情を知り、複雑な思いが胸に去来しているのだと打ち明ける。

「2才のお子さんを持つ女性の上司は、保育園の送り迎えのために時短勤務をとっています。もちろん、みんなが気を遣ったりしますが、上司の仕事量だと全部裁くことは物理的に不可能。休憩も食事もとらずなんとか仕事をこなすため、早朝に出勤し、その後、お子さんを保育園に送るために一時帰宅、その後また再出社。夕方もバタバタで退社。同じようにして仕事と子育てをできる自信はありません」(沢井さん)

 子育てしながら仕事を続けるのは大変なことで、忙しい毎日になるだろうと予想はしていた。ところが、リアルのワーキングママを身近で見たら、限界を超えてでも働くという選択肢しかないと提示されているようで、恐ろしくなったのだ。その女性上司が管理職のままでいることを望んだかどうかまでは沢井さんのあずかり知らぬところだが、時短勤務なのに管理職としての仕事はそのままでは、物理的にパンクしてしまう。昇給や昇進の面で不利になっても子育て支援制度を利用して働きたいと考えても、サービス時間外勤務がデフォルトになる道しか実際には用意されていないのではないかと、恐怖にとらわれるのも無理はない。

 さらに沢井さんを恐れさせているのは、制度の利用をあからさまに嫌う人たちが、その嫌悪を隠そうともしないことだ。

「制度を利用しているだけなのに、子供の迎えに……と各部署に謝るようにして退社しなければならない。病気などで急に迎えの予定が早まるようなことがあれば、部下に仕事を丸投げせざるを得ないこともある。そういうときに制度を利用して早く退社すると、子供のいない社員からは”迷惑だ”と陰口をたたかれ、子育てを終えた中高年の社員からは”甘すぎる”と指摘される。結局、仕組みがあったところで、職場の理解が追いついていない以上はどうすることもできない」(沢井さん)

 何も、当然のこととして受け入れろと言っているわけではない。せめて、普通に送り出すくらいのことはできないのかという気持ちなのだ。子供のいない社員が分からないのは想像力の欠如なのだとまだ諦めもつくが、子育てを終えた中高年の社員はほとんどが男性で、子育ては専業主婦かパート勤務の妻に丸投げして仕事だけを続けた人ばかりだ。彼らは現実を知らないだろうにと思ってしまうのだが、ならば女性の先輩たちはどうかといえば、ワークライフバランスを調整しましょうという話題にはならず「今の母親は甘い」と言われてしまう。

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