茂木敏充・幹事長は次期首相候補の“本命”という見方もあったが…(時事通信フォト)
旧安倍支持勢力の“盟主”
麻生氏も菅氏も、そうした自分の立場を強く意識している。
まず菅氏だ。1年前、コロナ対策の失敗で岸田首相をはじめとする自民党内の「菅降ろし」で退陣に追い込まれたが、安倍氏の国葬の弔辞で面目を施し、旧安倍支持勢力の“盟主”として復権した。政策面でも、「無策」の岸田首相と比べ、菅氏はわずか1年の首相在任中に携帯料金の値下げやデジタル庁の創設、不妊治療への保険適用など様々な改革を行なったことが再評価されている。
その「反岸田」の菅氏はじっと政局の行方をにらんで動かない。元産経新聞政治部長で、安倍・菅両政権に食い込んだ取材で知られた政治ジャーナリスト・石橋文登氏が菅氏の立場をこう語る。
「菅前総理はいま、反主流派のドンとして力を強めている。自民党の反主流派は菅グループ、二階派、森山派を合わせて約70人で、最大派閥の安倍派に次ぐ勢力です。安倍派は跡目問題で迷走中だが、後継者候補の萩生田氏、世耕弘成氏、西村康稔・経産相の3人は菅氏が安倍内閣の官房長官だった時代に官房副長官として仕えていたから絆が深い。その意味で、いまの安倍派を束ねることができるのは菅氏しかいない。反主流派と安倍派を合わせると約170人、自民党の4割の勢力を握っていると言っていい」
菅氏が安倍氏の死後、準備していた「菅派」の旗揚げをあえて見送ったのも、安倍派を含めた党内最大勢力の盟主の立場を選んだからだという。
ポスト岸田の首相選びでは、菅氏の動向がカギを握る。では、次の総裁選で、菅氏は前回同様に河野氏を担ぐのだろうか。石橋氏が続ける。
「判断は非常に難しい。菅氏が河野氏を推しても、安倍派はついてこないでしょう。高市早苗氏は菅派が推せない。かといって安倍派の後継者候補の世耕氏や西村氏らを総裁選に担げば安倍派が分裂してしまう。岸田総理の支持率が下がり、国会運営が迷走する中で、菅氏はどう動くか知恵を絞っている。だから、沈黙を守っているのだと思う」
その安倍派からは、菅氏自身の再登板を求める声が強まっている。安倍派の中堅議員が菅擁立を語る。
「無策の岸田政権が行き詰まった以上、政治を安倍路線に復帰させて政権を安定させることができるのは菅さんしかいない。菅さん自身は1年前に総理を辞めたばかりだから固辞するだろうが、内心はそうした状況、自分の立場をよく理解している。岸田退陣となった途端に、我々が菅再登板の流れをつくるし、そうなれば本人も断われないはずです」
旧統一教会汚染の中核である安倍派は、国民の厳しい視線を向けられ、派内から総裁選に候補者を擁立すれば批判の集中砲火を浴びる。萩生田氏ら安倍派の後継者候補たちは、教団批判のほとぼりが冷めるのを待ち、“次の次”を目指したほうが現実的という打算もある。そのためには、政治路線が同じ菅氏の再登板のほうが都合がいいのだ。