ライフ

与謝野晶子が綴った新型インフルエンザ病床の記 政府への不満を訴える

与謝野晶子の新型インフルエンザ病床の記とは(イラスト/斉藤ヨーコ)

与謝野晶子の新型インフルエンザ病床の記について(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、与謝野晶子がつづった新型ウイルス病床の記についてお届けする。

 * * *
 1918年にスペイン・インフルエンザ(スペインかぜ・新型インフルエンザ)が発生、世界を襲いました。当時は第一次世界大戦の真っただ中、この大戦での戦没者1000万人の数倍(4000万から8000万人)の命がこのパンデミックで失われたと推定されています。

 この新型インフルエンザは鳥インフルエンザウイルスが遺伝子の変異を起こして、人から人に連続的に感染できるようになって発生しました。横須賀軍港に碇泊した軍艦から日本にもウイルスが上陸、約3週間で全国に拡大。その病床の記を著名な歌人与謝野晶子は、1918年11月10日「感冒の床から」、1920年1月25日「死の恐怖」として、流行下での日本の状況と政府への不満を『横浜貿易新報』に綴っています。与謝野一家も11人の子どものひとりが小学校で感染してきて発症、家族全員が次々と倒れていました。

 世の中は医師、看護師が真っ先に感染し、昼夜を問わず患者は増え、医療は破綻。犠牲者は日に日に増え、火葬場では“焼け残し”が出るほどで、遺族は仕方なく地方の火葬場で荼毘に付そうとしたために、上野駅や大阪駅では棺桶が山積みになっていました。政府は「人混みに出るな、うがい、マスク」を推奨しました。しかし、神仏に救いを求めた神社仏閣への参拝のための満員電車にはなんら規制はされず、流行に拍車がかかりました。

 その中で与謝野晶子は、最後まで子どもたちのために生きたい、あらゆる予防と抵抗を尽くして病魔に対抗し、予防接種を受け、不自然な死に対して聡明でありたいとの意志を紙上に表明します。「人事を尽くしたい」、子どものために「生の旗を押立てながら」生きたいと記しました。ふと私は、彼女の歌を思い出しました。

〈ああをとうとよ君を泣く 君死にたまふことなかれ 末に生まれし君なれば 親のなさけはまさりしも(以下略)〉(『明星』1904年9月号)

 日露戦争の激戦地、旅順口包囲軍に出征している弟に「無事に帰れ、気を附けよ」との思いを詠んだ歌です。富国強兵軍国主義一色の時代、この歌は世を瞠目させ、国賊と非難する声もあがりました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン