『カメラを止めるな!』といえば、上田慎一郎監督やキャスト陣による熱心な宣伝活動も話題を呼んだ。その宣伝拠点の一つだった池袋シネマ・ロサ支配人の矢川亮氏に、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が当時の裏側を聞いた。

 * * *
矢川:上田監督とキャストたちはツイッターの使い方が上手でした。自主興行であれだけツイッターを駆使したのは初のケースでしょうし、映画業界の宣伝で今はツイッターがメインになっているのも、あの影響はあるでしょうね。

――特にどの辺りに上手さを感じましたか。

矢川:一般のお客さん、著名人問わず、ツイートはいい感想も悪い感想も、全部「いいね!」とリツイートをみんなでバンバンやっていました。それをお客さん側が喜んで、さらに広めようとしてくれるわけです。リアルでもSNS上でも。

――監督やキャストにリアクションをもらえるのは、お客さんからすると嬉しいことですからね。

矢川:ツイッターの活用と同時に、映画を観終わったらそこに本人たちがいる、というのもありました。僕が一番驚いたのは、上映後にイベントをやるということで、最初はENBUさんと相談して「何月何日の何時の回は監督とAさんとBさん」と普通にやってたんです。ところがある日、「もしかしたらみんな勝手に来ちゃうかもしれないので、それはできる限り対応してあげてください」って言われたんです。

 でも、こちらは「そんなにしょっちゅう来ないよね」という構えをしていたんです。K’sさんは昼間に三回続けてやってるから、どこか上映の合間に行けば一回か二回は立ち会えるけど、それが終わったあとにわざわざ――しかも満席の劇場だったら行き甲斐があるけど――まだ当館は「今日は五十人です」みたいな入りでしたから「K’sさんで一日やった後に、こっちまでは来ないでしょう」とたかをくくってたんです。

 ところが、本当に毎日キャストの誰かが来るんですよ。監督を筆頭に。そして上映後にロビーでお客さんにサインするんです。

 イベントをやるとなったら、普通はスピーカーとかマイクとか用意するじゃないですか。でも、きちんとした告知をしていないので、我々は当初はその用意をしていないわけです。それでも監督やキャストが十人ぐらい来ちゃうんですよ。そして「マイクはなくていいから、挨拶させてほしい」と言う。

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