ライフ

【書評】意外なほど聞き上手な宮沢和史氏が沖縄の声に真摯に耳を傾けた

『沖縄のことを聞かせてください』/編・宮沢和史

『沖縄のことを聞かせてください』/編・宮沢和史

 ロシアによるウクライナ侵攻、安倍元首相銃撃といった衝撃的な事件が次々に起きた2022年。大きな歴史の分岐点に立つ私たちはいま、何を考え、どう処すべきなのか? 本誌・週刊ポストのレギュラー書評委員12名と特別寄稿者1名が選んだ1冊が、その手がかりになるはずだ──。

【書評】『沖縄のことを聞かせてください』/宮沢和史・編/双葉社/2420円
【評者】柳広司(作家)

 大ヒット曲「島唄」で知られる宮沢和史氏によるエッセイと、様々なジャンルの沖縄関係者をゲストに招いた対談を集めた一冊。

 宮沢氏は意外なほどの聞き上手だ。例えばゲスト一人目は具志堅用高氏。復帰年に初めて本土を訪れ、四年後に世界タイトルを奪取したボクシングの偉大な元世界王者“沖縄のカンムリワシ”だ(十三度の連続防衛記録はいまだ破られていない)。

 彼の思い出話に宮沢氏は敬意をもって耳を傾ける。復帰で何が変わり、何が変わらなかったのか。また具志堅氏が世界チャンピオンになったことで沖縄と本土の意識がどう変わったのか。具志堅氏も「鳩間節とボクシングのリズムは一緒」など、独特のユーモラスな発想で答えている。

 本書に登場するゲストは二〇代から九〇代。年齢だけでなく職業も立場も異なる人々が語る沖縄の話に、宮沢氏は一貫して真摯に耳を傾ける。

「島唄」誕生のきっかけは、民間人を巻き込んだ沖縄地上戦の現実を知った衝撃だったという。戦後も長く本土から切り離され、米軍支配下に置かれた沖縄の現実を本土の者として知らなかった。その事実に宮沢氏は打ちのめされた。一方で彼は「ヤマトの人間がこの曲を発表していいのだろうか?」と悩む。その問いかけは、本書の行間からも伝わってくる。

 復帰五〇年となる二〇二二年は、柳広司にとっては本誌連載『南風に乗る』(本号最終回)の年だった。明けても暮れても沖縄関係の資料にどっぷり浸かり、本土政府の狡いやり口に憤慨し続けた一年だ。小説を書いている間、ずっと感じていたのもやはり「ヤマトの人間がこの作品を発表していいのだろうか?」という疑問だった。

 宮沢氏の真摯な問いかけと沖縄を生きる人たちの肩の力を抜いた答えに、自分には見えていなかった出口を教えてもらった気がした。沖縄から学ぶことは多い。そのために必要なのは、沖縄の声に真摯に耳を傾けること。そう教えてくれる一冊だ。

※週刊ポスト2023年1月1・6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大阪・関西万博を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
【美しい!と称賛】佳子さま “3着目のドットワンピ”に絶賛の声 モード誌スタイリストが解説「セブンティーズな着こなしで、万博と皇室の“歴史”を表現されたのでは」
NEWSポストセブン
8月27日早朝、谷本将志容疑者の居室で家宅捜索が行われた(右:共同通信)
《4畳半の居室に“2柱の位牌”》「300万円の自己破産を手伝った」谷本将司容疑者の勤務先社長が明かしていた“不可解な素顔”「飲みに行っても1次会で帰るタイプ」
NEWSポストセブン
騒動から2ヶ月が経ったが…(時事通信フォト)
《正直、ショックだよ》国分太一のコンプラ違反でTOKIO解散に長瀬智也が漏らしていたリアルな“本音”
NEWSポストセブン
ロシアで勾留中に死亡したウクライナ人フリージャーナリスト、ビクトリア・ロシチナさん(Facebook /時事通信フォト)
脳、眼球、咽頭が摘出、体重は20キロ台…“激しい拷問”受けたウクライナ人女性記者の葬儀を覆った“深い悲しみと怒り”「大行列ができ軍人が『ビクトリアに栄光あれ!』と…」
NEWSポストセブン
谷本容疑者(35)の地元を取材すると、ある暗い過去があることがわかった(共同通信)
「小学生時代は不登校気味」「1人でエアガンをバンバン撃っていた」“異常な思考”はいつ芽生えたのか…谷本将志容疑者の少年時代とは【神戸市・24歳女性刺殺】
NEWSポストセブン
大谷の「二刀流登板日」に私服で観戦した真美子さん(共同通信)
「私服姿の真美子さんが駆けつけて…」大谷翔平が妻を招いた「二刀流登板日」、インタビューに「今がキャリアの頂上」と語った“覚悟と焦燥”
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚を発表した(左・Instagramより)
《お腹にそっと手を当てて》ひとり娘の趣里は区役所を訪れ…背中を押す水谷豊・伊藤蘭、育んできた3人家族の「絆」
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
《前科は懲役2年6か月執行猶予5年》「ストーカーだけでなく盗撮も…」「5回オートロックすり抜け」公判でも“相当悪質”と指摘された谷本将志容疑者の“首締め告白事件”の内幕
NEWSポストセブン
硬式野球部監督の退任が発表された広陵高校・中井哲之氏
【広陵野球部・暴力問題で被害者父が告白】中井監督の退任後も「学校から連絡なし」…ほとぼり冷めたら復帰する可能性も 学校側は「警察の捜査に誠実に対応中」と回答
NEWSポストセブン
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
NEWSポストセブン
Benjamin パクチー(Xより)
「鎌倉でぷりぷりたんす」観光名所で胸部を露出するアイドルのSNSが物議…運営は「ファッションの認識」と説明、鎌倉市は「周囲へのご配慮をお願いいたします」
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“タダで行為できます”の海外インフルエンサー女性(26)が男性と「複数で絡み合って」…テレビ番組で過激シーン放送で物議《英・公共放送が制作》
NEWSポストセブン