国内

世界で勢いを増す「政治カルト」 トルコ、インド、アメリカで政教分離の危機

右から評論家の宮崎哲弥氏、『宗教問題』編集長の小川寛大氏、ジャーナリストの鈴木エイト氏

宗教問題について対談した(右から)評論家の宮崎哲弥氏、『宗教問題』編集長の小川寛大氏、ジャーナリストの鈴木エイト氏

 旧統一教会問題で政治と宗教の関係に注目が集まっている。影響は創価学会と公明党にも波及しており、日本の宗教はターニングポイントを迎えている。評論家の宮崎哲弥氏、『宗教問題』編集長の小川寛大氏、ジャーナリストの鈴木エイト氏が話し合った。【全3回の第3回、第1回から読む

 * * *
宮崎:現在、日本の宗教界はターニングポイントを迎えています。伝統宗教も新宗教も、選挙や葬式ばかりに頼るのではなく、本当の意味での宗教的な救済をどのように信者信徒にもたらすかを真剣に考えないといけません。家族や地域社会など、国と個人の間にある中間共同体が崩れ、寄る辺を失う人が増えるなかで、あまりに宗教が形骸化している。

小川:オウム事件後、神社や仏教、創価学会など既存の宗教は総出で宗教法人法改正に抵抗したけど、統一教会の問題についてはダンマリで嵐が過ぎるのを待っています。下手に騒いだら、こっちに来るとの認識です。

宮崎:宗教はアイデンティティの根拠を教えます。そして生死の意味も教える。だからこそ宗教2世問題の根は極めて深いと言える。特異な生育状況、生活環境に投入されてしまった2世がいかにして、それを克服するか。極めて厄介な問題ですよ。

鈴木:宗教2世の問題は安倍(晋三)さんの事件でようやくクローズアップされました。救済法案が成立したのも、宗教2世が顔を出して支援を求めたことが大きかった。

小川:これからはカルト的な宗教法人には社会の厳しい目が向けられて、活動が難しくなるはずです。しかし、それで個人が抱える心の問題が解決するとは到底思えません。むしろ新しいステージに移行するのではないか。

宮崎:その意味でも伝統宗教が本来の宗教性を取り戻すことが重要だと思いますね。かつてオウムに走った若者に「単なる風景」と切って捨てられた伝統宗教ですが、その後も「単なる風景」は変わらなかった。とくに寺院はいまこそアイデンティティの拠り所として出直すべきではないか。

 他方「政治カルト」もこれから勢いを増しそうな気配ですね。

小川:世界に目を向けると、トルコのエルドアン大統領やインドのモディ首相のように、宗教指導者と見まがう政治指導者が現われています。現にアメリカのトランプ前大統領をみればわかりますが、彼を支持するキリスト教右派・福音派のサポートがなければ、もう共和党は選挙ができない。政教分離は大切な原理原則であり、日本も堅持すべきですが、世界的には政教分離は終焉に向かうかもしれません。今後はそんな視座も持っておいたほうがいい。

宮崎:しかしそれは政治が硬直化し、それゆえ不安定化する原因にもなります。現代政治の要諦は理念などではなく妥協と利害調整です。だけどカルトには両方とも難しいでしょう。

(了。第1回から読む

【プロフィール】
宮崎哲弥(みやざき・てつや)/1962年生まれ、福岡県出身。評論家。慶應義塾大学文学部卒業。政治哲学、生命倫理、仏教論を主軸とした評論活動を行なう。著書に『仏教論争』(ちくま新書)、『教養としての上級語彙』(新潮社)など多数。

小川寛大(おがわ・かんだい)/1979年生まれ、熊本県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙「中外日報」記者を経て独立、『宗教問題』編集長に。著書に『神社本庁とは何か』(K&Kプレス)、『南北戦争』(中央公論新社)など。

鈴木エイト(すずき・えいと)/滋賀県出身。日本大学卒業。ジャーナリスト。ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表、主筆を歴任。カルト宗教問題を扱う日本脱カルト協会に所属。著書に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』。

※週刊ポスト2023年1月13・20日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン