中島:発生時期はどう考えていますか。
鎌田:内閣府は「30年以内に発生する確率が70~80%」としていますが、私はより具体的に2035プラスマイナス5年頃に起こると思っています。これは真剣に地震への準備を考えてもらうための警鐘の意味を込めた予想です。地震学者の尾池和夫先生(静岡県立大学学長)は、2038年というピンポイントの数字を著書で示しておられます。長尾先生はいかがでしょうか。
長尾:時期に関して言及するのは非常に難しいですね。ただファクトとして、前回の南海トラフ巨大地震(1944年「昭和東南海地震」及び1946年「昭和南海地震」)から70年以上が経っているので、2030年代に発生する可能性を考慮して対策するべきと考えます。
鎌田:南海トラフ巨大地震は、発生すれば被害総額は220兆円、予想される死者数は約32万人で、これらは東日本大震災の10倍以上です。
中島:非常に高い確率で起こりうる国家存亡の危機であると国民に広く知っていただきたいですね。
鎌田:地震とも関係があるので、最後に火山についても触れておきましょう。2022年2月には阿蘇山の噴火警戒レベルが3に引き上げられた。東日本大震災で日本列島の地盤が不安定になりマグマが揺らされた結果、111の活火山のうち、富士山を含む20火山が噴火のスタンバイ状態にあります。
3.11の4日後には富士山の直下14kmで地震が起こりました。私たち火山学者は“マグマ溜まりの天井にヒビが入った”と説明していますが、次の巨大地震ではもたないでしょう。
長尾:私も次の富士山噴火は南海トラフ巨大地震に誘発されて起こる可能性が高いと思っています。もともと地震と火山の国である日本で、20世紀最大の噴火は1914年の桜島噴火でした。100年以上もそれを上回る噴火がないのですが、今後、日本は通常の火山活動に戻り、いろいろな噴火が起こると考えます。
中島:私が直近の火山噴火で警戒しているのは、伊豆大島の三原山です。35年周期のところ、前回(1986年)の噴火からすでに36年が経っています。
鎌田:富士山噴火の内閣府の被害想定は2兆5000億円。しかしこれは19年前の試算で、それでは済まないでしょう。電気に依存する日本のライフラインは、火山灰が降ればひとたまりもない。実際は想定の10倍、30兆円規模の被害になると思います。地震と火山噴火が連動すれば、先に挙げた南海トラフの巨大地震の被害想定220兆円に30兆円の被害がプラスされることになります。
一方、事前に防災準備ができれば死者の8割、被害額の6割が減らせるとの試算もあります。2023年も地震や噴火への備えを訴え続けていきたい。
【プロフィール】
鎌田浩毅(かまた・ひろき)/1955年、東京都生まれ。京都大学名誉教授・同レジリエンス実践ユニット特任教授。専門は地球科学・火山学・科学教育。南海トラフ巨大地震、富士山噴火、首都直下地震の発生予測を研究中。
長尾年恭(ながお・としやす)/1955年、東京都生まれ。東海大学・静岡県立大学客員教授。日本地震予知学会会長及び認定NPO法人「富士山測候所を活用する会」理事。専門は固体地球物理学、地震予知学。
中島淳一(なかじま・じゅんいち)/1976年、茨城県生まれ。東京工業大学理学院地球惑星科学系教授。専門は地震学。研究テーマは沈み込み帯における地震・火山テクトニクスの理解と解明。
※週刊ポスト2023年1月13・20日号