ライフ

アガサ・クリスティーの小説で事件の鍵となった感染症「風疹」の基礎知識

「風疹」の特徴なども解説

「風疹」の特徴などを解説

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、アガサ・クリスティー『鏡は横にひび割れて』で事件の鍵となる感染症「風疹」についてお届けする。

 * * *
 ミステリーの女王、アガサ・クリスティーの推理小説に『鏡は横にひび割れて』という作品があります。日本でも1981年に『クリスタル殺人事件』として映画が公開され、エリザベス・テーラーが美しく悲しい主人公を演じました。この殺人事件の鍵となるのが、風疹という感染症です。

 風疹は風疹ウイルスの感染による病気で、まず小さな赤い発疹があらわれます。軽度の発熱(あっても38度くらい)、リンパ節(耳の後ろや首)の腫れもありますが、この赤い発疹が主症状です。発疹は3日くらいで消え、ほとんどの場合は予後良好です。

 しかし、風疹の免疫のない女性が妊娠初期に罹ると、お腹の胎児にウイルスが感染することがあります。すると、赤ちゃんが目の病気(緑内障、白内障、網膜症など)、難聴、先天性の心臓の病気(動脈管開存症など)、血小板減少性紫斑病(血小板という血液の成分が少なくなり、紫色の斑点が出ます)、低出生体重などの障害をもって生まれることがあるのです(全員ではありません)。

 さて、アガサが生み出した名探偵ミス・マープルの住んでいる村に、精神的に不安定になっている名女優マリーナ・グレッグとそれを深い愛情で包み込んでいる映画監督の夫婦が引っ越してきます。

 その引っ越し祝いのパーティーの会場に有名女優に一目会いたいと集った人々の中で、ひときわ興奮気味の女性(ヘザー・バブコック)がマリーナに声を掛け、「わたしをおぼえていてくださらないでしょうねぇ」と話し出しました。彼女は以前バミューダにいたとき、マリーナの舞台に駆けつけ、サインをもらいキスをしたことがあったと言うのです。そのとき、ヘザーは風疹で熱を出して寝込んでいたのに、医師が行ってはいけないと言うのを無視し、ピンク色の発疹は厚化粧で隠してマリーナに会いに行ったと言うのです。

 一方、マリーナはこのとき妊娠初期でまさに風疹に感染してしまい、彼女の子どもは生まれながらの障害を持ってしまったのです。ヘザーの喜々とした言動にマリーナは、この女が自分と自分の子供が積年苦しんできた悲劇の元凶となった風疹をうつしたことを瞬時に悟ってしまいます。そして、このパーティー会場でヘザーが毒殺されるのでした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の公判が神戸地裁で開かれた(右・時事通信)
「弟の死体で引きつけて…」祖母・母・弟をクロスボウで撃ち殺した野津英滉被告(28)、母親の遺体をリビングに引きずった「残忍すぎる理由」【公判詳報】
NEWSポストセブン
焼酎とウイスキーはロックかストレートのみで飲むスタイル
《松本の不動産王として悠々自適》「銃弾5発を浴びて生還」テコンドー協会“最強のボス”金原昇氏が語る壮絶半生と知られざる教育者の素顔
NEWSポストセブン
沖縄県那覇市の「未成年バー」で
《震える手に泳ぐ視線…未成年衝撃画像》ゾンビタバコ、大麻、コカインが蔓延する「未成年バー」の実態とは 少年は「あれはヤバい。吸ったら終わり」と証言
NEWSポストセブン
米ルイジアナ州で12歳の少年がワニに襲われ死亡した事件が起きた(Facebook /ワニの写真はサンプルです)
《米・12歳少年がワニに襲われ死亡》発見時に「ワニが少年を隠そうとしていた」…背景には4児ママによる“悪辣な虐待”「生後3か月に暴行して脳に損傷」「新生児からコカイン反応」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
“1日で100人と関係を持つ”動画で物議を醸したイギリス出身の女性インフルエンサー、リリー・フィリップス(インスタグラムより)
《“1日で100人と関係を持つ”で物議》イギリス・金髪ロングの美人インフルエンサー(24)を襲った危険なトラブル 父親は「育て方を間違えたんじゃ…」と後悔
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」