WSJの記事は日本国内でも注目を集めた
英オックスフォード大が公開する「Our World in Data」の集計では、人口100人あたりのワクチン接種回数は、日本が304.74回で世界トップだ(1月25日現在)。
ところが、WHOがまとめた新型コロナ感染症の集計で、日本は週間感染者数が2022年11月から10週連続で世界1位を記録した。今年1月24日までの1週間の統計では約57万人で、G20のなかでもダントツの数字だ。
なぜ、ワクチンの接種回数が世界トップなのに、感染者数が世界最多なのか──。こうした疑問がワクチンへの信頼を揺るがせているとみられるが、本当にワクチンを打つほどコロナにかかりやすくなるのか。専門家にこの論文について問うと、「鵜呑みにするのは早計だ」という意見が数多く返ってきた。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「そもそもこのWSJの記事は『Nature』や『Cell』といった科学雑誌に掲載された4つの論文のそれぞれ一部分を取り上げたもので、元の論文ではワクチンの有効性について、統計をもとに肯定的に触れています。
また最もインパクトのあったクリーブランド・クリニックの医師らの〈3回以上接種した人は未接種者より3.4倍感染率が高くなった〉という論文は査読前のもので、正式な医学研究として評価されておらず、現時点では臨床診療の指針にはなりません」
クリーブランド・クリニックの研究論文についてはほかにも疑問点がある。昭和大学医学部客員教授(感染症学)の二木芳人医師が指摘する。
「この研究はあくまで医療従事者を対象としたものです。ワクチンの接種回数が多い医療従事者ほど重症化リスクが少ないと考えられる。そのためコロナ診療の最前線で業務に当たったり、感染対策に思わぬ緩みが生じたりして、感染リスクが高くなった可能性がある。ワクチンの効果を知るには接種回数だけでなく、それ以外の要素まで考慮する必要があります。データの報じられ方は、やや問題があると思います。
WSJの紹介した論文が代表的な例ですが、米国の疾病対策予防センターが行なった対象人数が33万人を超える調査でワクチンの接種回数が多いほど感染者も多かったとするデータをもとに“ワクチンのせいだ”とする言説などは、接種回数以外のファクターを無視しているのが問題です」