また1985年には王道の『全員集合』が終わって、ワイドショーが日航機墜落事故や豊田商事会長刺殺事件やロス疑惑を報じる中で、例のヤラセ事件が発覚する。探検隊終了も〈もらい事故〉というより同時多発的なものだったかもしれません」
しかしヤラセの定義自体曖昧で、著者の旅は先述の嘉門氏や早大探検部出身の高野秀行氏ら、番組の外にも及ぶ。実は探検隊自体はその後何度か復活しており、1994年には名高達郎氏を隊長に〈肉食恐竜ミゴー捕獲〉と銘打つも結果は非難囂々。〈この頃から社会が大人の遊びを徐々に受け入れなくなった〉とある人は言い、特に1995年のオウム事件以降、〈カジュアルなオカルトを面白がる空気〉が失われ、〈「イエスかノーか」という行間の無い時代〉の延長に今があると鹿島氏は書く。
視聴率のための過剰演出じゃない
「僕は今のテレビを腐すために本書を書いたんじゃないんです。むしろずっと〈半笑い〉で語られてきたあの番組の影響下に、今でも多くの作り手がいるんじゃないかと思っていて、コンプライアンスや何やで雁字搦めの中、それを掻い潜って面白いものを作ろうとするだけで凄いよねとか、テレビマンの熱さを見直す本になっていればいいなと。
格闘技にしてもあの時代があるから今があるわけで、どっちがいい悪いじゃなく、全部1つの流れの中に続いている話だと思うんです」
そして鹿島氏はいよいよテレビには映らない〈一番ヤバいとき〉を知る元隊員らの元へ。〈落差30メートル宙吊りの放送作家〉に〈ウミヘビ手掴み10匹持つAD〉。かと思えば、台本の存在を公表していれば〈心がチクチク〉せずに済んだという元ディレクターまでいた。
「その彼も2000年代に『藤岡弘、探検隊』に誘われると心が騒ぐんですよね。そこは業なのか。その他、TBSの徳川埋蔵金や『世界ふしぎ発見!』、フジの『なるほど!ザ・ワールド』にもイズムは継がれ、過剰演出は視聴率とは一切関係なく、単に現場が面白い絵を求めた結果だというある人の言葉はなるほどと思いました。
確かに蛇を仕込む前の毒蛇駆除こそ命がけで、嘘と実が逆転している(笑)。だとすれば本当だとされているものの中に逆に嘘があってもおかしくなく、神の手事件にロス疑惑にと興味は尽きませんでした」