風邪を治すために、不眠を解消するために、体の痛みを取るために……病気を遠ざけ、健康な体を維持するために服用するのが薬。しかし、医師の診察のもと、オーダーメード式で提供される処方薬の中には、体や脳を老化させる原因となるものもあるという。その中でも、ナビタスクリニック川崎の内科医、谷本哲也さんが真っ先に挙げるのは、高血圧の薬だ。
「血圧を下げるための降圧剤は、効きすぎると逆に低血圧となり、認知機能の低下や脱力感などの副作用が生じます。実際、『年のせいで体力が衰えた』と感じていた人の原因が降圧剤だったこともある。ふらついて転倒する危険性もあります」(谷本さん)
降圧剤の中でも特に気をつけるべきは利尿剤だと銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんは指摘する。
「尿から塩分を排出させることで血圧を下げる薬ですが、その際に体内にたまっているカルシウムも一緒に排出してしまう。長期で使い続けるとカルシウムが欠乏して、骨粗しょう症になる可能性があります」(長澤さん)
逆流性食道炎や胃痛、胸やけなどで処方されるプロトンポンプ阻害剤にも、骨粗しょう症のリスクがある。谷本さんが解説する。
「胃酸を抑える強力な作用があるため、栄養分であるカルシウムの吸収も抑えてしまい、長期で使うと骨粗しょう症のリスクがあります。非常に高い効果があり、頻繁に処方されますが、症状が治まっているのに漫然と使うべきではありません。胃の不調は食事内容や飲酒なども関係しているので、薬だけに頼らず、生活習慣の見直しも行ってほしい」
プロトンポンプ阻害剤の長期服用は、認知機能を低下させるとの研究報告もある。いずれにせよ慢性的にのむことは避けるべきだろう。
高血圧と並んで多くの人が服用している脂質異常症の薬にもリスクが存在する。
「代表的な薬である『スタチン系の薬』は副作用として横紋筋融解症が知られています。スタチンが細胞内小器官『ミトコンドリア』の働きを障害するなどして発症し、横紋筋が壊死して筋肉痛や脱力などの症状が出ます」(谷本さん)
体の機能を低下させる処方薬はほかにもある。炎症やアレルギーを抑える効果が高く、肺炎や膠原病、喘息など多くの疾患に使われるステロイド(副腎皮質ホルモン)は、骨粗しょう症のリスクを上げる。
「ステロイドの体内で骨を作る細胞の働きを弱めるなどの作用により、長期的な使用は骨密度を低下させます。特にのみ薬を長期で使うときは、塗り薬よりも副作用に注意が必要で、医師とよく相談する必要があります」(谷本さん)
ステロイドの内服には、認知機能低下の副作用も報告されている。薬剤師の三上彰貴子さんが言う。
「3か月以上続けてのんでいた人で、認知機能障害や記憶力の低下がみられたという報告があります」(三上さん)
長澤さんはステロイドの服用には見た目の変化も伴うと指摘する。