ライフ

南米のインカ・アステカをあっけなく滅ぼした、天然痘や麻疹の大流行

天然痘流行はスペイン人が拠点としたヒスパニオーラ島から始まった(イラスト/斉藤ヨーコ)

天然痘流行はスペイン人が拠点としたヒスパニオーラ島から始まった(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、天然痘と麻疹の大流行についてお届けする。

 * * *
 天然痘や麻疹をはじめ多くの感染症は大昔に動物から人にうつって、人に適応した病気です。

 動物のウイルスが人に感染する絶好の機会は動物を食べることで、食文化と感染症には強い関係性がみられます。

 ヨーロッパの食文化が農耕と牛、豚などの家畜農産物から成り立っているのに対して、昔、南北アメリカには家畜となる牛、馬、豚がいませんでした。そのため、家畜由来の感染症である天然痘や麻疹には、まったくの処女地だったのです。スペイン人がインカ文明やアステカ文明をもつ帝国をあっけなく滅ぼすことができた大きな要因も、謀らずも彼らが体内に宿して持ち込んだこれらのウイルスの大流行でした。

 14世紀頃より、メキシコ盆地のテノチティトランを中心にアステカ族が築いた王国がありました。1492年、新大陸アメリカがコロンブスによって発見されると、スペインは植民地活動に乗り出し遠征隊を送り込みます。天然痘は5世紀からは南ヨーロッパで繰り返し流行を起こしていましたから、スペイン人の多くは幼児期に罹って生き残った免疫をもった大人でした。一方、新大陸には麻疹も天然痘もなかったために、先住民族のインディオはその免疫をもっていません。そこにスペイン人によって、これらのウイルスが持ち込まれたのです。

 天然痘流行はスペイン人が拠点としたヒスパニオーラ島から始まり、キューバに伝播され、1518年にはカリブ海に浮かぶ島でも猛威を振るい、先住民の人口を激減させました。さらにエルナン・コルテスはたった500人の手下でユカタン半島のアステカ人の治めるメキシコを目指します。

 そこには中米の最後の大文明とされるアステカ文明があって、メキシコ全土を支配していました。このときスペイン人が連れていた奴隷の中に天然痘を発症している者がいて、この遠征でスペイン人は天然痘ウイルスをユカタン半島にばらまく結果となったのです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン