宇都宮:なるほど、貴重な卵子を提供して、身をゆだねるだけの理由がほしいと考えれば、自分を説得してくれるような物語が必要だという彼女たちの気持ちがわかりました。そうすると、ホス狂いたちが身を粉にして担当ホストに尽くしまくるのも、「尽くすだけの価値がこの男にはある」と思いたいからなのかもしれない。
橘:女性のロマンス願望って、「共感したい」ということなんじゃないかと思うんですよね。知人にとても優秀な女性がいるのですが、彼女はなぜか「ダメ男」に尽くしてしまう。相手の男はアート系の仕事をしていて、その業界では少し名前が売れているものの、私生活がすごくだらしない。彼女から愚痴を聞かされて「ほんとヒドい男だよね」と同情すると、「でも最後は、私が彼の骨を拾ってあげなきゃ」といわれて驚くみたいな。何度も痛い目にあっているのに、「仕事のサポート」と称して何から何まで手伝っている。
宇都宮:すごくよくわかります(笑い)。それってきっと、「仕事の業界で少し有名」というところもポイントなんだと思います。きっと彼女の中では「私のがんばりで、この人を成功させてふたりで幸せになる」という物語ができている。
橘:まわりを見ても、中途半端にダメな奴がいちばんモテる(笑い)。そもそもダメなだけの男は相手にされませんが、一方ですごく才能があって、自分一人で成功できる男もあまりモテない。尽くし甲斐がないんでしょうね。
宇都宮:確かにホストクラブでもナンバー入りするような男の子って、みんながイケメンで完璧という訳でもなくて、「なぜこの人が?」と疑問に思うようなホストも多いイメージでした。
橘:あくまでも個人的な印象ですが、離婚と結婚を繰り返す男は、自分に共感して尽くしてくれる女を見つけるのがものすごくうまい。だけどそんな風に、賢い女がバカな男に尽くすことが日本をダメにしているんじゃないかと、暗澹たる気持ちにもなります。
宇都宮:私も、ホス狂いのエネルギーを別の場所に向けたら、何でもできるんじゃないかと思います。だけど愛する「担当」がそのエネルギー源であることを考えると、そう上手くはいかないかもしれませんが。