当時、私はホストにハマる女性たち、通称「ホス狂い」を取材するために、トー横広場の前に建つアパホテルに住み込んでいた。トー横に集まる子供たちは通称「トー横キッズ」と呼ばれる。私が見た彼らは、髪の毛を原色に染め、常にストロングゼロ缶を手にして、グループを作って「路上飲み」していた。
私が深夜にホテルに戻ると、髪の毛を紫に染めた、まだ顔もあどけないような若い女の子が、アパホテルの部屋着を胸元もあらわになるほどにはだけながら「キャー!!」という嬌声をあげ、ホテル向かいのファミリーマートに突っ込んでいくところだった。その後ろには、若い男性3人が、ニヤニヤし「自撮り棒」を長く伸ばしてスマホで撮影しながらついていくのだ。また、その頃には、キッズたちがホームレスを暴行死させる事件なども発生していた。
いわゆる歌舞伎町の住人という意味では、私の取材対象であるホストクラブ周辺の人々とトー横キッズは近い存在だと思う人もいるかもしれないが、大きく異なる。両者の間には明確な住み分けがあると感じていた。あるホス狂いの女の子は、顔見知りのホストのことを「あいつ、この間トー横でキャッチしてた、モブホスト(※特徴もなく人気もない存在感の薄いホストのこと)だよ」と嘲笑し、歌舞伎町の有名店の役職付きホストは「“トー横キッズ”が存在する意味がわからない。なぜ路上でつるんで飲むんだ!酒飲むんなら家で飲め!」と一刀両断する。「同じ歌舞伎町だからって、トー横キッズたちと一緒にしてほしくない」と言い捨てるホス狂いの女の子もいた。
そんなホストやホス狂いたちの複雑な心境を尻目に、「トー横」の知名度は少しずつ全国区になって行く。ニュースや週刊誌でその実態が取り上げられた他、中村倫也(36)主演のドラマ『石子と羽男―そんなことで訴えます?―』(TBS系)にも登場。ドラマ化もされた人気漫画『明日、私は誰かのカノジョ』でヒロインたちがトー横で「ストロングゼロ」を飲むシーンが描かれると、“聖地巡礼”する若いファンが殺到した。一時期は観光地化していたトー横ゆえに、そこに集まる人々の中からインフルエンサー的な存在が生まれることもあった。
その中のひとつが、ハセベ被告が所属していた「歌舞伎町卍會」だ。