ライフ

前川裕氏、新作は未解決事件がベース「事実ほど分からないものはなく、分からないものほど薄気味悪いはない」

前川裕氏が新作について語る

前川裕氏が新作について語る

 これは実話か、それとも小説かと問われれば、「私としては仮に1%でも事実と異なることがあれば、それはやはりフィクションだと答えざるを得ません」と、比較文学者と作家の二刀流を地で行き、この程“ノンフィクション・ノヴェル”『完黙の女』を上梓した前川裕氏(72)は言う。

 物語は1984年1月、福岡市内に住む〈篠山照幸〉君、当時9歳が、〈タナカさんのお母さんに貸していた物を返してもらう〉と言い残し、そのまま行方不明となった〈篠山君事件〉の真相及び、時効まであと56日に迫った1998年11月に逮捕された元ホステス〈三藤響子〉の沈黙の理由を、ノンフィクション・ノヴェルに書くよう依頼された小説家で大学教授の、その名も〈前田裕司〉が、元刑事らの証言を集める形で追う。

 ちなみに響子にはその後、福岡地裁で無罪判決が下り、2002年に検察は上告を断念。傷害致死は既に時効を迎え、殺人罪も構成要件に必要な殺意が認定できない中での、〈消極的無罪〉ともいえた。そんな不可解な事件から実に38年後、現場を訪れ、関係者に話を訊いた前田は、〈本当のことは、あの女にしか分からない〉との思いをいよいよ強くするのだった。

「私の場合、映画化された『クリーピー』のモデルは北九州の監禁連続殺人に違いないとか、完全なフェイクとして書いた『死屍累々の夜』のモデルを探したけどそんな事件はないとか、読者の間でモデル探しの話が多いんですけど、実際には外れが多いなあっていつも思っていたんですね。

 ただ、本作は今までとは書き方がまるで違っています。巻末にも明記したように、1984年1月に札幌市豊平区で起きた男児失踪死亡事件と、1991年に千葉市で起きた女子中学生誘拐事件という未解決事件を、事実関係は極力そのままにミステリー要素も加味した物語として再構成しました。

 もちろん実際は2つの事件の間には何の関係もないはずですし、舞台も札幌から博多に移しています。一方で日付や天候、聴取状況の詳細に至るまで、地方紙も含む新聞や雑誌や裁判経過も全て調べた上で、モデルどころではないレベルで精査して書いていきました。

 なぜそこまでするのかというと、事件の真相なんて要は分かりようがないわけですね。ここまで調べたけど結局分かりませんでしたというのが私の答えで、でも本質や真実なら、描き出すのは可能かもしれないと。そう思ったわけです」

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン