元プロ野球選手史上最多逮捕となった宮本武文容疑者(写真は現役時代)
YouTubeでの自己申告を見ると、それまでの逮捕なら同情の余地はある。経営する店のために客引きをして逮捕されたのも、水商売の世界に乗り込んだ男の戦勲といえなくもない。が、今回、元プロ野球選手史上最多逮捕記録を更新した逮捕容疑は、暴力団と組んだ計画的かつ悪質、そして恥ずかしい犯罪だ。
「嫌々だったかもしれないし、脅されていた可能性だってある。でも盗みに関与していたなら、いい年齢の社会人が無知を理由に抗弁できる犯罪ではない。印象は最悪です」(在阪のテレビ局報道部記者)
もはや自虐ネタにするのは難しい。這い上がるには、茨の道を覚悟せねばならない。
前記の笠原将生氏は自身のYouTubeチャンネルで、「ちょっとヤバいですね、これ」「まさかこういう窃盗とかするとは思わなかった」と語り、昔なじみを厳しく叱責した後、「こんなことするやつですけど。根はいいんやけどな」「飯行っても普通に礼儀とか出来てると思うし」とフォローした。
「どうするんやろな。このまま悪の道を貫くのか。逆に貫いちゃったらどう?」
という台詞は視聴者へのジョークなのだろうが、実をいえば元巨人軍選手には先輩がいる。甲子園で連覇し、巨人軍が伝説のV9を達成した時にも在籍していた捕手で、昭和世代なら特別野球ファンでなくてもその名を知っているだろう。
賭博場にいた元捕手
彼に会ったのは、大阪市西成区にある通称・ロータリーという常盆だった。当時、西成では酒梅組(博徒系指定暴力団)が年中無休で博奕を行なう常設の盆中、いわゆる常盆を複数開設していた。常盆は賭客を手配・集客せず、勝手に来訪してくるという日本らしいロジックを使って実質的に黙認されていた闇賭博場だ。当時、私は西成の飛田新地に部屋を借り、あちこちの盆中に入り浸っていた。新設のロータリーは主要な常盆が閉まっている時間を狙って開けていたが、こしゃ(小規模)の博奕ばかりだった。
「この人、元巨人軍の○○」と親分に紹介された彼は、組織の若頭だった。暴力団は権威主義なので、「元巨人軍」の経歴は、表社会以上の金看板になる。暴力団社会で元巨人が目立つのは、ブランド力が図抜けているからだ。
暴力団風のねちねちしたいやらしさのない、爽やかな人だった。ヤクザの役職では、組長を除くと若頭だけが特別な意味を持つ。若い衆の長男坊で跡目候補であり、前線指揮官だからだ。暴力団の中でも博徒は勝負師であり、勝負事の中で生きているプロ野球選手とは気質が似ているとはいえ、遅咲きのヤクザとしては異例の大出世である。