彼は、同じ酒梅組内杉浦組の若い衆から渡世入りしたと話した。1991年にパチスロ販売会社の社長を拉致監禁した強盗事件で運転手をして逮捕された事件は、一般紙でも大きく「転落」と報道された。その後、杉浦組のトップが山口組に移籍し、ロータリーを開設した同門の二次団体の若頭となった。
「○○さんは最初、胴を振りに来てたんです。助けてやろうという温情です。野球選手だったから合力(金の付け引きをする)もできんし、博奕も見えへん。でもすごく真面目なんです。スポーツの世界でも一流どころで揉んでもらってるから規律には厳しい。プロ中のプロで堅すぎるくらい」(当時同じ組織にいた元組員)
笠原氏が宮本容疑者を「礼儀とかは出来ている」と評したように、ヤクザは表面上の礼儀作法を過大に評価する。それでもここまで評価されるのは、ヤクザとしての腹が据わっていたからだろう。キャバクラのボーイから水商売を始めた宮本容疑者も持ち前の礼儀正しさが評価され、夜の町で奮闘するうち、暴力団との接点が生まれ、今回の事件に繋がったのではないか。
宮本容疑者はYouTubeでこう話していた。
「人間、失敗することがあると思います。ですがネットとかで晒されても取り返しが付かないわけじゃない」
古き良き博徒はすでに絶滅寸前である。現代暴力団は反社会的勢力として生きていくしかない。たとえ茨の道でも耐えて忍べばまた花は咲く。どれだけつらくても表社会に踏みとどまり奮闘して欲しい。
【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。フリーライター。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。
※週刊ポスト2023年6月23日号