今年の選抜出場を決めた際の西谷監督と前田(筆者撮影)
危機感がある時ほど強い
両試合にスタメン出場したのは、U-18高校日本代表の候補にもなった二塁手の村本と神奈川県出身の遊撃手・小川、そして新チームの発足以来、正捕手を務めてきた南川の3人だけだ。
中堅手の長澤元は享栄戦で死球を受けた影響があるのか、富山の招待試合は欠場。村本と共に高校日本代表の合宿に参加した山田太成や、両投げの2年生野手・徳丸快晴も富山に姿はなかった。
投手陣は前田だけでなく、選抜で好投した南恒誠も右肩のコンディション不良で近畿大会からベンチを外れており、招待試合には3番手に位置づけられていた2年生の南陽人の名前もなかった。
毎年6月は、全国各地で招待試合が開催され、大阪桐蔭のような際立つ実績のある名門校は引く手あまたの状況だ。夏の大会を前に、実力校と有観客のスタジアムで対戦するメリットは大きい。だが、猛暑での戦いに向けた強化期間中で、ただでさえ疲労がピークにある6月に、長時間の移動だけでなく、雨に祟られてしまえばただの休養日になってしまう招待試合に参加するリスクがあるのも事実だ。まして、今年の大阪桐蔭のようにケガ人が続出しているのならデメリットも小さくはないだろう。
富山第一との試合後、地元の報道陣と富山県高野連の関係者との間では一悶着があった。地元紙が富山第一の選手に話を聞いたことが問題になっていたのだ。富山県高野連関係者によると、大阪桐蔭の要望によって招待試合における試合後の取材がNGとなり、あわせて地元校への取材まで禁止になったというのだ。
大阪桐蔭の西谷浩一監督は、よほどケガ人の状況を報道陣に探られたくないということなのか。一方で、この招待試合に不参加だった選手たちは大阪桐蔭のグラウンドで練習していたという情報もある。関西の強豪校の監督が話す。
「チームに危機感がある時ほど、西谷監督は夏に向けてチームを仕上げてくる。何も問題ないでしょう」
その意見には激しく同意する。たとえば、2014年のチームだ。大阪桐蔭では藤浪晋太郎(現アスレチックス)らが2012年に春夏連覇を達成し、森友哉(現オリックス)がチームを牽引した翌年のチームも春夏の甲子園に出場。ところが、2013年の秋には、秋季大阪大会で履正社にコールド負けを喫し、選抜出場の道を絶たれた。そこから主将の中村誠を中心にチームを立て直し、結局、夏には深紅の大優勝旗を手にしたが、その時のチーム状況に今年の大阪桐蔭は近い。高校野球界で一強時代を築く大阪桐蔭にも、エアポケットのような選手層、チーム状況に陥ることがあるのだ。
富山でのベンチには、日本体育大、日本製鉄かずさマジックを経て昨年度よりコーチ陣に加わっている中村の姿があった。大阪桐蔭に身を置くことでしか体験し得ぬ苦境を誰より知る先人がナインのすぐ側にいるのだ。大阪桐蔭を追い続けるいち記者が抱く危機感などきっと杞憂に終わるだろう。
◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)
