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杉下茂さんと金田正一さん 昭和の大投手は互いの「ストレート」を認め合っていた

互いを認め合っていた金田さん(左)と杉下さん(右)

互いを認め合っていた金田さん(左)と杉下さん(右)

 昭和のプロ野球を盛り上げたレジェンドがまた一人、この世を去った。「フォークボールの神様」と呼ばれ、通算215勝をあげた元中日のエース、杉下茂さんが97歳で亡くなった。杉下さんといえば、現役時代には400勝投手の金田正一さんとライバル関係にあったことから、生前の取材では金田さんの話題になると盛り上がるのが常だった。

 金田さんは本誌・週刊ポストでの連載もあったため、杉下さんもポストからの取材となると金田さんの話で熱を帯びるようだった。年齢は杉下さんが8歳上で、プロ入りは杉下さんが1年早い。1950年代の中日・国鉄戦は、両エースの投げ合いになることが常だった。

 杉下さんは「金田とは数えきれないほど投げ合ったが、あんな速い球を投げる投手は後にも先にも見たことがない。投げない時は代打要員としてベンチで座っている。投手だけでなく、野球人としてすべてを兼ね備えていた」と最大限の賛辞を贈っていたものの、球界の天皇を「金田」と呼び捨てにできたのは杉下さんくらいのものだった。

 1955年5月10日には、金田さんの国鉄を相手に、杉下さんがノーヒットノーランを達成する。杉下さんはこんなふうに振り返っていた。

「9回途中までパーフェクトだったが、金田にフルカウントから四球を与え、完全試合を逃してしまった。悔しかったですね。ただ、金田はもっと悔しかったんだろうね。その2年後(1957年8月21日)には、今度はボクと投げ合って金田が完全試合を達成した。最初から記録を狙っていたんだろうね。金田は、序盤は山なりのカーブを多投して、中日打線は凡打の山を築いた。後半になると投球を一変させ、バットにかすらないような速い球を投げてきた。明らかに体力を温存していたよ」

 この試合では、9回一死から判定を巡って中日側が抗議し、スタンドからファンが乱入するなどの騒ぎが起きた。40分間の中断のあと、金田さんは残る2者を連続三振に打ち取って完全試合を達成している。「並みの投手ならまともに投げられる状況ではなかった。この精神力が金田正一そのものだった」と杉下さんは褒めちぎっていた。

「金田は自信満々で、“オレのボールを打てっこないよ”という感じでやっていましたよ。プロ入り2年目、18歳の頃からそうだった。金田は自分のストレートを打った打者に対し、相手が年上でも“よくオレのボールを打った”と吠えていた。それぐらい自分のストレートに自信があった」(杉下さん)

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