ライフ

人にもロボットにもバイアスがあって当たりまえ。脳科学者・中野信子氏とロボット開発者・林要氏が語る未来

中野信子(脳科学者・医学博士・認知科学者)と林要(GROOVE X 株式会社 CEO・代表取締役)

中野信子氏(左)と林要氏(右)。中央には世界初の家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」が

 ここ数年でAIはますます生活に欠かせない存在になってきた。人間とAIの共生はこの先どこへ向かっていくのだろうか。最新のAIを搭載したロボットを開発している林要さんは、「ロボットを考えるときに、もっと人間を知る必要があった」と話す。世界初の家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」開発時、林さんは脳科学者・中野信子さんに認知科学の見地から意見を求めたという。以来交流のある二人が、人とAIの未来について語りつくした。【全3回の第1回】

「愛でる力」を引き出して、人を幸せにするテクノロジー

中野信子(以下、中野):LOVOTのプロジェクトは、そもそも何かの目的に向けて効率よく働くロボットだけが必要なのかという林さんの問題提起から始まったんですよね。

林要(以下、林):人は犬や猫を愛でることで幸せを感じていますね。今は最新テクノロジーで犬や猫の動きはそこそこ再現できるので、この「愛でる力」を引き出して、人を幸せにするテクノロジーがあってもいいんじゃないかという話を中野先生にしたら、「それはオキシトシンといってね」というお話が始まりまして(笑)、それまでぼんやり考えていたことに学術的な知見をいただいたことで、一気に見通しがよくなりました。

中野:その話は、脳科学の発展の歴史と大きく重なる部分があるんです。脳の報酬系とよばれる神経ネットワークは研究対象としてたくさん取り上げられてきたけれど、愛情やコミュニケーションに関する神経ネットワークについてはあまり研究されてこなかったんです。

林:報酬系は人を何かに向かって突っ走らせるための仕組みで、興奮ホルモンのドーパミンが深く関わっていますよね。

中野:そうです。一方、愛情やコミュニケーションに深く関わるのはオキシトシンです。このドーパミンに関する論文とオキシトシンに関する論文って、量としては10対1ぐらいの差があったんですよ。

林:オキシトシンの研究自体、非常に少なかったわけですね。

中野:人間関係こそ私たちはストレスに感じて、大変な思いをしているのにね。「では、オキシトシンはどんな役割を果たすのか」という脳科学の知見を提供させていただきました。

林:人間と愛着や信頼関係をどう築くのかが、このLOVOT開発の課題でしたから。

中野:質感とか柔らかさの話なんかもしましたよね。母ザルから引き離された赤ちゃんザルが、針金で作られたお母さんと、毛布のどちらを選ぶかという実験です。針金の方からはミルクがもらえます。お腹がすいた時だけは針金のお母さんからミルクを飲んでいたサルも、それ以外の時間は毛布を選ぶんです。柔らかいことに機能がある、という話です。

林:柔らかい質感が脳内のオキシトシンの分泌を促すわけですね。

中野:握手やハグも、オキシトシンの分泌を促して仲間意識や愛着をつくり出します。握手した候補者に投票したくなるという現象がありますけど、それは脳が生理的に反応してしまうからです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン