「思い出せないくらいやっている」
大堀容疑者が財団に経理担当として採用されたのは、『渡鬼』の第5シーズンが放送された2000年頃だった。黙々と丁寧に仕事をこなす彼女に対し、橋田さんも信頼を寄せ、程なくして経理の責任者に抜擢。橋田さんの莫大な財産を管理するため、真摯にお金と向き合う日々。そんな真面目な彼女の心に“隙”が生まれたのは、いまから10年ほど前のことだ。
その日、仕事帰りの大堀容疑者が向かったのは都内の百貨店。西日が反射するショーウィンドーの奥には、高級バッグがズラリと並んでいた。好奇心で店内に入るが、店員は声を掛けてこない。どうせ私のお給料じゃ買えない──ゼロの並んだ金額を見つめるうち、ある考えが頭をよぎった。
「あとで返せばいいのだから、財団のお金を借りればいいんだ」
翌日、財団のオフィスから持ち出した現金を手に再び店を訪れると、店員の態度が一変した。会計を済ませ、オレンジ色の紙袋の重みを感じながら店を出る。振り向くと、店員が深々と頭を下げていた。
一線を踏み越えると、もうブレーキは利かなかった。大堀容疑者は次々にバッグや靴などを買い揃え、それらを身につけ、高級レストランへも出掛けるようになった。すでに経理は彼女だけが管理していたため、返金することなく、帳簿は改ざんされ、堂々と着服は続けられた。回数が増えるたび、罪の意識は薄れていった。
「横領した財団の金は、フェンディやルイ・ヴィトンなどでの買い物や飲食代に使い、“店で店員と仲よくなり、お得意さんと扱われて気持ちがよくなった”“思い出せないくらい(犯行を)やっている”と本人も認めています」(捜査関係者)
これまでに確認されているのは、約3年間、12回に及ぶ着服だ。
「橋田賞のパンフレット作成という名目で架空の請求書を作ったり、領収書を偽造して現金を着服したりと手口はさまざまでした。そのほかの使途不明金も確認されているため、捜査は引き続き行われており、被害額は1億円を超える可能性も出てきています」(前出・捜査関係者)
密かに財団の財布を私物化していた大堀容疑者だったが、橋田さんは全幅の信頼を置いていたという。
「橋田さんは、質素にひとり暮らしをしながら、40代半ばから20年近く財団で働いていた大堀さんを心配することはあっても、疑うことはまったくありませんでした」(前出・財団関係者)
しかし、そこに不穏さを感じ取っていた人物がいた。橋田さんを「ママ」と慕っていた女優・泉ピン子(75才)である。
「ピン子さんは生前の橋田さんから、“いつの間にか財団のお金が消えている”と聞かされていたそうです。金額にして3億円から4億円。その話を聞いて、ピン子さんははたと思い至ったそうなんです。
実はピン子さんはかなり前から、大堀容疑者がヴィトンの上顧客であることを知っていた。そして、どうしてそんなにお金があるのだろうか、と訝しんでもいました。そこへ財団のお金がなくなっていると聞いて、点と点が線で結ばれた。周囲にも警告していたそうです」(ピン子の知人)