パブピアでこうした論文不正が指摘された今年3月、S氏は前触れもなく国循を辞職してロンドン大学に戻った。理由は明かされていないが、論文への疑惑発覚とタイミングはぴったり符合する。
本誌・週刊ポストはロンドン大学の広報担当者にS氏の論文不正疑惑について把握しているのかを質問したが、回答期限までに返答はなかった。
大津氏をトップとする国循はS氏の論文に疑義が生じたことも公表していないが、大津氏はその他の研究不正には厳しい態度を見せてきた。
2018年まで国循に在籍した医師のがん研究論文で実験に使ったマウスの数の捏造や画像の使い回しが発覚した問題では、今年5月に当該の医師に退職金の返還を求める措置を公表。この件についてメディアの取材を受けた大津氏は、「研究者として、決して許されるものではない」と述べていた。
2021年8月には、大津氏は国循の「研究の不正防止計画」を改定。国循の元職員によると、この改定時に「過去の研究において不正行為に関与していない」とする誓約書の提出を研究に関わる全職員に要求したという。
そうして職員に厳しい誓約を求める一方で、大津氏は自身の研究論文にパブピアで不正の指摘がされていることを知っているのだろうか。
第三者調査委員会の設置へ
国循の広報は、大津氏のインタビュー取材は受けられない、としながらも、文書で回答した。
〈大津は、本件(パブピアの不正疑惑の指摘)について把握しております。また、厚生労働省には6月末に報告済みでございます〉(括弧内は筆者補足)
論文の不正疑惑についての見解は──。
〈第三者のみからなる調査委員会による調査が行われることになっております〉
画像の使い回しを大津氏は知っていたのか、などの質問には、〈調査の公正中立性に影響するおそれがありますので、お答えは差し控えさせていただきます〉とするのみ。
国循の元職員から入手した前述の誓約書には、公的研究費の使用に当たり、各種の規定や法令等を遵守するとともに、〈説明責任を果たします〉との文言がある。広報を通じて、大津氏自身もこの誓約書に署名しているとの回答があった。
そこで我々は帰宅途中の大津氏を直撃した。