福島第一原発の処理水放出用の配管(時事通信フォト)
約10倍の放射性物質を放出
そもそも、中韓は日本が放出する処理水を「核汚染水」と呼んでいるが、「汚染水」と「処理水」は科学的に違う。
原発事故と風評影響に詳しく、国の処理水の処分をめぐる有識者会議の委員も務めた小山良太・福島大学食農学類教授が語る。
「福島第一原発の事故炉がある建物内には、溶け落ちた核燃料棒があり、今も水で冷やし続けています。冷却に使った汚染水には64種類の放射性物質が含まれており、それを多核種除去設備のALPS(アルプス)で処理して、トリチウム以外の放射性物質の濃度を国の基準値未満に下げたのが処理水になります。
ただし、事故直後の汚染水の量が多かったのでアルプスでセシウムやストロンチウムなどが処理できなかった。フィルターの交換もままならなかったからです。そのため事故当初の処理水のタンクは大量に必要だった。しかし、今は地下水の流入量も減少しており、ALPSの処理性能を発揮できるようになっている。近年のタンクの中はトリチウム以外の核種がほぼ取り除けた状況です」
そのトリチウムが残った処理水を海水で薄めて海洋に放出するのが政府の方針だ。なぜ安全と言えるのか。
「トリチウムは水素の同類で普通の水と混じっているので除去は困難ですが、自然界で発生する物質で、太陽の紫外線に当たると生成されるし、人体には通常10ベクレルほど常に入っている。人類は有史以来トリチウムとともに生きてきた。そこで日本政府はトリチウムが残った処理水をさらに海水で希釈し、1リットル当たり1500ベクレルという自然に溶け込むレベルまで下げて海洋に放出することを決めています」
メルトダウンを起こした原子炉を今後も長期にわたって冷却し続けなければならない日本にとって、大量に出続ける処理水を希釈して海洋放出することが最も現実的な方法といえる。