こうして昼の時間にずらり並んでいるのは、定年リタイア組、通称“遊び人”たちだ。角打ちのこのカウンターで飲んでいたかと思うと、駅から電車に乗って元町まで買い物に行き、また戻ってきて飲む猛者もいる。

 最近、仕事をリタイアして昼飲みの店を探しているという“リタイアルーキー”もいた。

「探索してたらここに吸い込まれました。昼間どこ行こかー思うと自然と足が向く。14時の開店目指して家からここまで、バスに乗らんとわざわざ片道40分も歩くのが日課やね。健康な昼飲みや思わへん?」(元デザイン系、60代)

残夏には、焼酎ハイボールがよく合う

残夏には、焼酎ハイボールがよく合う

 この角打ちの特徴はもう一つある。昼の客と夜の客が夕方を境に見事に入れ替わることだ。

「“遊び人”たちが帰って、仕事帰りのお客さんにガラッと入れ替わる。実質、2部制やな」(50代女性)

「そうそう、夜組はちゃんとした人らや(笑い)」(前出の70代常連)

 前出の50代女性は、「うち、こっから徒歩2分ですねん。仕事帰りに安心して寄れます。お母さんと『どうやって味付けしたん?』『どこで買うたん?』って、料理のことを教えてもらいながら飲むのが好き。家で作ってみよかなあって」と、毎日顔を出す。

「この店のいちばんすごいところはな、夜20時に、キチっと終わること。客が誰もダラダラ飲まへん。19時50分くらいになったら、客が暖簾をしまう。常連客が店を終わらすんや。ピッタリ、きっちりに終わって、お父さんとお母さんに休んでもらわな。明日も元気に開けてもらわなアカンやんか」(70代)

 客が家族のように店主夫妻の体調を気遣っている。

 話が弾んでいるとき、「でけたで~」と聖子さんの声がして、「よっしゃ!」とカウンターから歓声が上がった。この日は、金曜でカレー曜日なのだ。これがお目当ての客も多い。

「うどんでちょうだい」「こっちはルーだけ」「白ごはん、ちょこっとつけてや」と口々に個別オーダーが入る。

 この店では、連日こんな様子で、昼から夜まで、様々な面々がこのカウンターに並び、「ああ忙しい、ああ楽しい」と聖子さんが相手をする。

 皆の手には金色の缶。残夏には『焼酎ハイボール』がよく似合う。「キリッとした辛口で涼を取るっちゅーわけや。バテてられへんで~!」(80代)

聖子さんお手製の日替わりメニュー。この日は、手前から鯖の煮付け、ポテトサラダ、鶏と茄子のフライ(全て300円)。辛口の焼酎ハイボールと好相性だ

聖子さんお手製の日替わりメニュー。この日は、手前から鯖の煮付け、ポテトサラダ、鶏と茄子のフライ(全て300円)。辛口の焼酎ハイボールと好相性だ

■フジワラ酒店

藤原聖子さん(中央と娘の淑美さん(左)、右は淑美さんの夫●●さん

藤原聖子さん(中央と娘の淑美さん(左)、右は淑美さんの夫・誠さん

【住所】兵庫県神戸市垂水区瑞ヶ丘3-4
【電話】078-707-2721
【営業時間】月~土・祝8~20時(角打ちは14~20時)、 日10~18時、定休正月三が日 
焼酎ハイボール200円、ビール大びん440円~、ポテトサラダ300円、鯖の煮付け300円、鶏と茄子のフライ300円

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