1974年第56回全国高校野球での東海大相模ナイン。左から2人目が現在はプロ野球・巨人監督の原辰徳。高校球児といえば丸刈りの坊主頭以外の選択肢はなかった(時事通信フォト)

1974年第56回全国高校野球での東海大相模ナイン。左から2人目が現在はプロ野球・巨人監督の原辰徳。高校球児といえば丸刈りの坊主頭以外の選択肢はなかった(時事通信フォト)

坊主頭は選手の忖度だと思い込む外部からの苦情

 都内の公立高校野球部監督・重田淳さん(仮名・50代)は、チームの生徒達に「丸刈りじゃなくて良い」と伝えて、かれこれ10年以上が経過した。ほとんどの生徒が、スポーツ刈りや流行の短髪スタイルだが、やはり、大きな大会の前には一部の生徒が「気合いを入れる」為に頭を刈り上げてくると言う。そんな様子を見ていた観客が、重田さんにこう話しかけてきたという。

「お宅は未だに坊主強制で考え方が古い、指導が昭和的だと言われたことがありました。髪型は自由なんです、と説明しても生徒が”忖度している”とまで仰る。そこは生徒の自由なんですがね、今年は甲子園でも長髪選手が目立ち、そう思い込んでしまわれる外部の方も少なくない」(重田さん)

 長らく高校野球における髪型の「自由」が求められていたが、それが実現の過程に移行すると、今度は「坊主頭」へのネガティブな風潮が広がっているというのだ。髪型の自由を認めるのであれば、その選択肢には坊主というヘアスタイルも加わってよいはずなのに、「坊主頭にする自由」を生徒自身が選択しづらくなっていると話す。

「以前は、全員坊主頭のチームは強豪、強いというイメージもあったと思います。ただ、最近では”古くさい”とか”監督が厳しそう”と指摘されることも増えてきた。もちろん、長髪の生徒に”坊主にしてこい”などと、外野からヤジが飛んでくることもある。あくまでも、実際に野球をしている生徒の自由だということを、もっと多くの人に理解してほしいです」(重田さん)

 今年の甲子園大会を眺めていると、長髪選手が本当に増えた印象だ。また、流行のフェードカットやツーブロックなど、選手達がそれぞれオシャレに決めているのも、特筆すべき流れだろう。高校球児が使用する野球用の練習着、そしてバッグなどの服飾品も、以前とは比較にならないほど、ファッショナブルになった。 練習はキツいし、泥だらけで汚い、坊主でダサいという高校野球のイメージは、確かに変わりつつある。

 当然、坊主頭で野球をしてもいいわけで、坊主頭が悪いということではない。坊主頭を強制するような雰囲気がなくなった、というだけなのだが、なぜか「坊主は悪い」という風潮に振れすぎてしまう。新たな価値観の台頭は結構だが、そこに生まれる弊害に悩む生徒はすこし気の毒でもある。何より、生徒達が「自由に野球を楽しめる」環境こそが大切なのだ。

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