藤井亮氏が手掛けたタローマンのべらぼうな世界
岡本太郎の作品はそのままでも子供に“刺さる表現”だった
登場する「奇獣」ももちろん岡本太郎の作品がモチーフになっている(ちなみに『タローマン・クロニクル』などに「ミスターノン」や「水差し男爵」など人型の奇獣が掲載されているが映像本編には出てこない。これは「実は人型のほうが制作費がかかる」という経済的な理由とのこと)。そんな奇獣をデザインしていく中で改めて気づいたことがあるという。
「怪獣的なアレンジをしなくても、(岡本太郎の作品は)そのまま子供に刺さりそうな表現だなと思いましたね。強い目がドーンとあったり、わかりやすく原色が使われていたり、ある意味で絵本的。刺さるべくして刺さるデザイン。特徴的なところを切り出して奇獣の形にしているんですけど、本当にもうそれだけで大丈夫という」
各地でタローマンの展示イベントが開催されたが、いずれも大盛況だった。
「子供が素直に楽しんでくれているのがすごい印象的で。小さなお子様からお手紙とかもいただくんですけど、『いつもでたらめしてくれてありがとう』って書いてある子がすごく多くて。品行方正なヒーローではない、でたらめの巨人に対して『ありがとう』っていうのがすごく面白いなって。やっぱり子供は、めちゃくちゃにしたいっていう欲求はあるんだなって思いましたね。そういう欲求には応えられたのかなと。
美術館って年齢層が比較的高く、美術的なものに興味のある人しか来なかったんですけど、岡本太郎展では、子供の声が聞こえるようになったと、美術館の人たちも驚きつつ、喜んでくれました」
『帰ってくれタローマン』の「にがおえコーナー」には、藤井の保育園児の息子らしき子が描いたタローマンのイラストも紹介されていた。
「一応、パパが作ってるんだよみたいな話はしているんですけど、設定まではまだ理解できてないみたいです。やっぱり息子に面白がってほしいっていうのが根本にあって、子供が大事にしているウルトラマンのソフビの中にタローマンをそっと混ぜてみたいなっていう欲求がありましたね。ただ、うちの子は割と正統派のウルトラマンが好きなので、おもちゃで遊んでいても、タローマンはでたらめするからダメ!って(笑)」
(後編に続く)
【プロフィール】
藤井亮(ふじい・りょう)/映像作家。武蔵野美術大学卒業後、2003年電通に入社。滋賀県PR動画「石田三成CM」やNHK・Eテレ「ミッツ・カールくん」など発案、制作し話題を集める。2019年に独立し株式会社豪勢スタジオ(GOSAY studios)を設立。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。
©NHK・藤井亮 2023
撮影/槇野翔太