ライフ

「新米食べて涙を流した腐れ男」と「青山の標準価格米の悲劇」60代女性記者の“米”にまつわる思い出

新米

“オバ記者”こと野原広子が「米」にまつわる思い出を明かす

 実りの秋。新米の季節がやってきた。『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が、“米”にまつわる思い出を綴る。

 * * *
「秋」と聞いて即座に頭に浮かぶのが新米。新米が炊き上がって釜から立ち上ってくるあの清らかなにおいを嗅ぐと、もぅもぅ、たいがいのことはどうでもよくなるよね。ピカピカの粒を「ちょっとひと口だけ」とスプーンですくって口に放り込んだら最後、もうひと口、あとちょっとが止まらない。そして夕食時にあらためて新米に手を合わせて、丼に一杯。これは、毎年繰り返している秋のひとり行事だ。

 私が生まれた茨城県桜川市は昔から米どころ。母親から「皇室献上米がとれたんだど」と言い聞かされて育ったの。その昔、皇室に献上が許された米という意味で、大変名誉なことだったらしいわ。

 それを義父が車で運んで来てくれて食べていたのよ、上京した18才から60才になるまで。「ヒロコ、米はあんのが?」が挨拶代わりで、「そろそろなぐなるな」と言うと、「んじゃ、今度の日曜、持って行ぐべが」と電話の向こうの声が弾み出す。車で上京するのが大好きな両親と一緒に年4〜5回は来ていたの。

 食べ物は子供の頃から親から与えられたものが“基準”なんだよね。だから、私にはお米は2種類あって、うちで炊く米は「本物」だけど、仕事の合間にかっこんだり、女友達と人の噂話をしながらのランチは「別物」なんだよね。

 そう割り切ってはいたものの、そうもいっていられないことが48年間の東京暮らしで2回起きたんだわ。1回目は28才で離婚したとき。2回目は経営していた編集プロダクションを畳んだ40才の直前に、実家との音信がパタッと途絶えたとき。

 1回目は「なんだどぉ。離婚してもうほかの男がいるんだと? その男、ここに連れてこお!!」と母親が激怒して、「はあ、そんな娘、親でもね。子でもね」ということになり、ま、早い話、勘当よね。こっちも頭に血がのぼっているから、「ああ、わがった。じゃあな」と電話を叩き切ったわよ。でも、すぐに困ったのがお米なの。駆け落ち同然で千葉の団地に住み始めたのはいいけれど、男の経歴は笑っちゃうくらいウソ八百。「いままで金に困ったことはないから大丈夫だ」と私の肩を抱いたくせに、「給料? 今月はないな」って、おいおい。サラリーマンが給料ないってどういうこと?

 仕方がないからスーパーでいちばん安い米を買ったけど、千円札1枚で米と野菜、肉は買えないことを知って驚いた。千円札2枚でもキツい。

 そんなときに義父が「近くまで来たから」と言って、米袋半分の米を持ってきたんだわ。集合住宅の前で受け取って「じゃ」と言うと、「たまには電話でも寄ごせな」と言うけれど、なかなか車を発車させない。母親から「相手の男の顔を見てこい」と言われて来たのよね。

 ウソつき男にそれを言うと、「ふーん」と言ったきりテレビから目を離さない。だけど、新米を炊いてちゃぶ台に粗末なおかずと一緒に置いたら、ボロボロと大粒の涙を流したのよ、「新米ってうまいんだな」と言って。男は自称独身だったけど、実は妻と3人の子供と別れたばかりだったことを私に言い出せずにいたのよ。

 腐れ男はすぐに泣く、という定説も知らなかった28才の私はそんな男に騙されて、それから1年8か月、生活費ゼロ。あげく中古車ともろもろのローンを押しつけられて逃げられた、というお粗末。

関連キーワード

関連記事

トピックス

真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン
トランプ米大統領と高市早苗首相(写真・左/Getty Images、右/時事通信フォト)
《トランプ大統領への仕草に賛否》高市首相、「媚びている」「恥ずかしい」と批判される米軍基地での“飛び跳ね” どう振る舞えば批判されなかったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
アメリカ・オハイオ州のクリーブランドで5歳の少女が意識不明の状態で発見された(被害者の母親のFacebook /オハイオ州の街並みはサンプルです)
【全米が震撼】「髪の毛を抜かれ、口や陰部に棒を突っ込まれた」5歳の少女の母親が訴えた9歳と10歳の加害者による残虐な犯行、少年司法に対しオンライン署名が広がる
NEWSポストセブン
新恋人A氏と交際していることがわかった安達祐実
《新恋人発覚の安達祐実》沈黙の元夫・井戸田潤、現妻と「19歳娘」で3ショット…卒業式にも参加する“これからの家族の距離感”
NEWSポストセブン
キム・カーダシアン(45)(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストの元妻の下着ブランド》直毛、縮れ毛など12種類…“ヘア付きTバックショーツ”を発売し即完売 日本円にして6300円
NEWSポストセブン
レフェリー時代の笹崎さん(共同通信社)
《人喰いグマの襲撃》犠牲となった元プロレスレフェリーの無念 襲ったクマの胃袋には「植物性のものはひとつもなく、人間を食べていたことが確認された」  
女性セブン
大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン
チャリティーバザーを訪問された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《4年会えていない姉への思いも?》佳子さま、8年前に小室眞子さんが着用した“お下がり”ワンピで登場 民族衣装のようなデザインにパールをプラスしてエレガントに
NEWSポストセブン