殺害された猪野詩織さん(時事通信フォト)
あのカラオケボックスで涙を浮かべながら言った島田さんの言葉が頭に甦っていた。
「あの警察ではダメなんでしょうか」
今ならはっきり答えられた。
ダメだ。
それが私の結論だった。
私は長い間、事件、事故、災害と、いわゆる警察現場を渡り歩いて来た。毎週毎週、日本中をである。複雑な事件も何度見聞きしたか分からない。犯人と言い合いをしたこともあるし、事件の被告がヌレ衣を着せられただけで全くの無実であることを証明したこともあった。捜査と取材、やっていることは違っても、そこいらの所轄のデカさんよりはよっぽど件数も修羅場も踏んできたつもりだ。
だから分かる。上尾署はダメだ。救いようがない。誰かがなんとかしなければ、あそこはこのまま逃げ切るつもりだ。告訴を取り下げさせようとした刑事? そんなのいないよ。あれはニセ者だったってFOCUSにも書いてあるでしょ……。
冗談ではない、そんなこと許せるか。
私がすべきなのは覚悟を決めることだった。事件の犯人達が逮捕されたら、この事実を書くしかないと腹を決めることだった。すべて書こう。黙殺されるのがせいぜいかもしれないが、私が恥をさらすことになるのかもしれないが、はめられたまま嘘を垂れ流しているなんて、記者としてどうしようもなく不愉快だった。
今は待つしかない。殺人事件の犯人を逮捕できるのはやはり捜査本部しかないからだ。
だが、それで事件が終わりだなどと思ってもらっては困る。私のやらなければならないことは、もうひとつあるのだから。
手ぐすねひいて待っているにも拘らず、肝心の「逮捕」の方がまるで進んでいなかった。捜査員を池袋に張りつけてから、Bはマンションに姿を現わさないと言うのである。どうしてだ、ヤツらは安心しているはずだ。なぜ来ない……?
ところが私の情報源からは、まったく違う話が入って来ていた。池袋のそのマンションは一階がラーメン店なのだが、同じ日の夕方、その店の前でBとCがのんびりと立ち話をしていたというのだ。
県警は本気で逮捕をする気があるのか。まさか我々に対するポーズで捜査員を派遣しているのではないか。私の警察に対する不信感は募る一方だった。