国内

《桶川ストーカー殺人事件》「詩織は元交際相手と警察に殺された」犯人を逮捕しない捜査員に現場記者が感じた“被害者の2つの不幸”

桶川ストーカー国家賠償請求訴訟の控訴審判決のため、裁判所に入る両親(時事通信フォト)

桶川ストーカー国家賠償請求訴訟の控訴審判決のため、裁判所に入る両親(時事通信フォト)

 元交際男性から執拗なストーカー行為を受けたのち、別の男に刺殺された猪野詩織さん。「私が殺されたら犯人はA」と、我が身の危険を感じていた詩織さんは生前、親しい友人に「遺言」を託していた。遺言というバトンを受け取った週刊誌『FOCUS』記者・清水潔氏は、ある種の使命感に駆り立てられ、実行犯であるBとその仲間・Cの居場所を突き止める。しかし、この情報を得た警察は、なぜか犯人の逮捕に二の足を踏んでいるように見えた。そんななか、清水氏は警察による重大な隠蔽行為を知る。そして、ある覚悟を決めた──。

 単行本の発行から20余年経った今なお、「記者の教科書」とされる『桶川ストーカー殺人事件 -遺言-』(新潮文庫)。ジャーナリスト・清水潔氏の執念が、陰惨な事件の真相と警察の根深い闇を明らかにしていく。その一部を抜粋し、紹介する。【前後編の後編。前編から読む

※プライバシー保護の観点により、一部の個人名をアルファベットに置き換えて表記しています。

 * * *
 私は猪野家を辞去すると、再び桶川駅前の現場に戻っていた。

「犯人は必ず現場に戻る」

 嘘だ。用もないのにそんな危険なことをするヤツはいない。それが本当なら事件解決は簡単だ。捜査本部などいらない、現場の上に交番の一つでも建てればいい。

 Bは池袋でのうのうと暮らしている。Aは消えたままだ。現場に来るのは被害者の知人と使えない刑事と取材先の分からない記者だけ。

 いくつもの花束、友人達のメッセージ、詩織さんが好きだったお菓子やマスコット……。

 ぼんやりそれらを眺めながら、私は思った。

 なぜここまでこの事件にのめりこんでいるのだろう。いつからこうなってしまったのだろう。

 考えるまでもなかった。カラオケボックスで取材したあの夜だった。あの日私は確かに「何か」を託されたのだ。あの日から二ヶ月、私はほとんど休みもなくこの事件を追い続けていた。私を動かし続けてきたのは何だったろうか。頼みの綱を切られ、絶望していた詩織さんがそれでも遺したもの。自分が狙われるかも知れないという恐怖の中で、島田さん達が私に伝えたもの。

 島田さんは私に会うなり何と言っただろう?

「詩織はAと警察に殺されたんです」

 どうしてそのことに気がつかなかったのか。

 私はこの日まで、詩織さんに、島田さんに、陽子さんに託されたバトンは一本だと思っていた。とんでもないストーカー男がこの世にいるということだけだと思っていた。だがそうではなかった。バトンは二本あったのだ。

 詩織さんが島田さんに、陽子さんに言い遺したのはまさに「遺言」だった。そして島田さん達は、そのすべてを私に託したのだ。「三流」週刊誌記者の私に……。

関連キーワード

関連記事

トピックス

手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《産後とは思えない》真美子さん「背中がざっくり開いたドレスの着こなし」は努力の賜物…目撃されていた「白パーカー私服での外出姿」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこ(45)の自宅マンションで身元不明の遺体が見つかってから2週間が経とうとしている(Instagram/ブログより)
《遠野なぎこ宅で遺体発見》“特殊清掃のリアル”を専門家が明かす 自宅はエアコンがついておらず、昼間は40℃近くに…「熱中症で死亡した場合は大変です」
NEWSポストセブン
俳優やMCなど幅広い活躍をみせる松下奈緒
《相葉雅紀がトイレに入っていたら“ゴンゴンゴン”…》松下奈緒、共演者たちが明かした意外な素顔 MC、俳優として幅広い活躍ぶり、174cmの高身長も“強み”に
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン