筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構の神林崇教授
これまで明確な治療法がなかった起立性調節障害は、数え切れないほどの親子を苦しめてきた。朝起きられない子供と伴走するのは多くの場合、母親の役目。
「中学3年生の一人息子が、朝起きられなくなったのは1年前の夏休みのことでした」
そう話すのは、首都圏に住むSさん(47才)だ。彼女の息子は1年前の夏休みの朝を境に起きられなくなった。
「朝、顔がパンパンに腫れ上がり、別人のようでびっくりしました」(Sさん)
最もつらかったのは、2年生の秋から冬にかけてのこと。学校に通えない自分自身にいらだった息子が、家の中で暴れたり、Sさんに暴言を吐いたりするようになったのだ。
そんな頃、息子と一緒に近所の踏切で信号待ちをしていると“お母さん、ぼくがこの電車にひかれたら一発で終わりだね”と息子が口走った。
その瞬間、Sさんは周囲の風景が暗転するように感じた。そして、「できるだけこの子のそばにいよう」と決意したという。3年生となった息子は現在、寝るのは午前3時以降で、起きるのは正午を過ぎる。今年度になって学校に通えた日数は数えるほどしかなく、目前に迫った高校進学についても悩みはつきない。
「出口が見えないトンネルの中を手探りで進んでいる感じです」
と、Sさんは現在の心境を打ち明ける。
東海地方に住むOさん(52才)は、5人の子供を育ててきた。末っ子の娘が、中学2年生になった春、朝起きられなくなった。2年前のことだった。
理由がわからなかったOさんは、娘を何度も起こした。朝7時から10分おきに声を掛け続けたが、娘が起きてくるのは昼過ぎだった。近所のクリニックで検査を受けると、起立性調節障害と診断された。
「わが家は主人の理解がゼロでした」
とOさんは言う。夫は“何だって病名をつければいいってもんじゃない。血圧が多少低かろうが、そんなの気の持ちようだ”という考えだった。さらに、朝起きられない娘に“怠けてウソをついている”と言って詰め寄った。高校受験が近づくと、夫の態度はさらに硬化。“全寮制の高校に送り出して縁を切る”“出ていかないなら、おれが家から出ていく”と言い放った。
親から見捨てられることを恐れた娘は荒れ始めた。血圧計を投げ飛ばしてパソコンやテレビを壊すこともあった。傘立てでOさんを殴ることもあった。
かと思えば、「怖い! 怖い!」と泣きながら、Oさんと一緒に寝ると言って聞かない夜もあった。
娘と話し合い、“全日制の高校に行きたい”という希望を叶えることにした。娘が気に入った不登校経験がある生徒を受け入れる高校は、自宅から片道1時間半。月謝と交通費で、月10万円前後かかるが、Oさんが働いて捻出することで、夫との話し合いはまとまった。
高校1年生となった娘はいまも朝起きられない日がある。しかし、自分の闘病経験から看護師になりたいという夢を持ち、勉強を始めている。
