ID野球は「大いに参考にさせてもろた」

 そうした関係のなか、野村監督の就任直後にスタッフ顔合わせの席で言われた言葉が一番印象に残っていると岡田氏は振り返っていた。

「野村さんは“二軍の若い選手は短所を直せ”という。二軍選手は長所を伸ばしてやらなアカンと考えとったから、このオッサンえらいこと言うなと思ったのを覚えている。野村さんの持論は“長所は放っておいても伸びるもの。やるべきことは短所を直すこと”という話らしいが、短所は直らん。特に今の子供たちは長所を見つけて伸ばしてやらなあかんと思う。監督の指示やから無視はできんかったが、これは難しかったな」

 この奇妙な関係の3年間を過ごした後、岡田氏は2004年に阪神監督に就任。その時に野村氏の野球を参考にしたとも話していた。

「データを重要視していた野村さんのID野球は大いに参考にさせてもろた。すでに野村さんの考えがコーチやスコアラーにも浸透していたからな。あと、参考にしたのは投手を中心にした守りの野球やった。南海時代、野村さんは江夏豊さんにクローザーをさせた。オレは7回以降が重要やと思っていたから、7回、8回、9回を3人の投手に任せることにした。それがJFK(ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之)や。二軍監督時代に藤川が“もう先発はできない”と言うので、その頃から温めていた構想や。

 野村さんの野球を勉強させてもろうて、この起用法を確立させたいうか、現役時代、ラッキーセブンやいうて攻撃陣が活気づくが、それやったら7回を抑えたらええんちゃうかという発想や。野村さんからオレへの言葉は多くなかったが、野村さんの野球への探求心が身についてたんちゃうかな」

 15年ぶりに阪神の監督に就任した岡田監督は、野村氏直伝の「守りの野球」で38年ぶりの日本一になった。天国のノムさんが、評価しないはずがない。

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