──料理人としても社会人としても未熟な若者を育て、巣立たせるスタイルは、経験者を雇用するよりも苦労が多いと思います。それでも、若者を受け入れ続ける理由は?
「確かに、苦労は少なくないですね。時代や世代に合わせて、やり方を変えなければいけないときもある。ただ、経験者を雇う場合にもデメリットはあるんです。一番厄介なのは、前の店のやり方が染み付いちゃっている点。もちろん、それが正しいと教わってきたわけだから、ウチにきて急にやり方を変えられないのは当然ですし、経験者としてのプライドもあるでしょう。どうしても、今、自分が持っている技術や知識を出したくなるものです。そんななかでも素直に指導を聞いて、ウチのやり方をイチから吸収しようとする子は伸びていきますが、なかなか難しいですよね」
──料理の世界では、経験者は必ずしも即戦力ではないんですね。
「その点では、まだ変な色に染まっていない新人の方が育てやすい。逆を言うと、ウチで教えたことはその子に染み付くわけだから、下手な指導はできない。『レストラン大宮』にいたということが、その後も長く役立つようにしなければいけない。
そういう意味でも、若者を雇用するというのは責任の大きい仕事。生易しいものではありません」
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後編では、大宮シェフの修業時代のエピソード、当時と現在の料理人や料理業界の違い、料理人を目指す若者たちに求めるものなどについても尋ねていく──。
(後編に続く)