にもかかわらずこれを第一席にしたということは、陸軍もそれでOKを出したということなのだ。なぜ、「よい」のか。その答えは四番の歌詞にあるのかもしれない。
〈四.
友よ 我が子よ ありがたう
誉れの傷の ものがたり
何度聞いても 目がうるむ
あの日の戦に 散つた子も
けふは 九段の櫻花
よくこそ 咲いてくださつた〉
補給不足による飢餓などどうでもいい。むしろそういう苦戦で戦死してこそ名誉であり、靖国神社のある「九段の櫻花」になれるから、かえってよいということだ。恐るべきことである。これが国民の常識となってしまえば(つまりマスコミによる洗脳がここまで進んでしまえば)、兵站などどうでもいいということになり、実際そうした「前提」の下に始められた「苦戦覚悟の戦争」大東亜戦争では、ガダルカナルやインパールなどで日本陸軍は戦わずして多くの死者それも餓死者を出すことになった。戦争の効用ばかり強調して国民を洗脳するとこういう結果を生むのである。
ところで、一つ気になることがある。年代を確認しようと思ってネットで『満洲行進曲』を検索したところ、曲自体や歌詞は出てくるのだが、それが朝日新聞の「戦意高揚事業」だったという歴史的事実の記述がほとんど出てこない。昔はそんなことは無かった。まさか朝日関係者が率先してネットから削除したわけでもあるまいが(そういうことが可能なのかも私は知らないが)、そういう陰謀がもし行なわれているとすれば、朝日はいまだに懲りていないということになる。
(第1403回に続く)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2023年12月22日号