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【逆説の日本史】「苦戦を尊ぶ」がため無謀な戦争を好んで行なうようになった帝国陸軍

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第十二話「大日本帝国の確立VII」、「国際連盟への道5 その16」をお届けする(第1402回)。

 * * *
 NHK BSの『突撃!ストリートシェフ』という番組を御存じだろうか。世界各国の屋台や大衆食堂のシェフが作っている名物料理を、作り方も含めて紹介する「グルメドキュメンタリー」なのだが、先日(11月7日)放映された『@モンゴル・ウランバートル「社会主義時代の歴史を乗り越えて」』の回は興味深かった。

 番組では、中国の圧政から独立するためソビエト連邦の力を借りたモンゴル人が、その傘下に入った途端に民族の伝統である遊牧を禁止され、無理やり農業をやらされたという苦難の歴史が語られる。そして、中盤で登場するブリヤート系モンゴル人の女性シェフ「ハンダ」さんは、いまでもロシア連邦の一部であるブリヤート共和国の同胞たちがどんな目に遭っているかを同胞とともに語る。

 番組のナレーションをそのまま記すと、「ロシアに暮らすブリヤート人は常に差別の対象となってきた、と彼らは言っています。彼らによると、ブリヤート人への抑圧はいまでも続いているとのこと。ウクライナ侵攻の際、ロシアに真っ先に最前線に送られたのがブリヤート人だと、ハンダさんは言います」

 続いて彼女が自らの口で語る。「ブリヤートの同胞が大勢徴兵された。最初にひどい目に遭うのはいつもブリヤート人です」。この番組はNHKオンデマンドなどで現在も視聴可能だが、「教育番組」としても価値がある。

 前回、大国に「占領」され「植民地」あるいは「属国」となったところの民衆がどんな目に遭うかを十三世紀の元寇の例で説明したが、同じことが二十一世紀になった現在も実際に行なわれているのだ。もう一度言うが、どんな形にせよ独立を失うということは、家族をすべて人質に取られ侵略者の言うことに絶対服従しなければならなくなるということだ。

 そしてもう一つ、きわめて重大なことを言っておけば、こういう状態のときにもっとも被害を受けるのは女性だということである。言うまでも無く、性加害の対象になるからだ。自分の母や妻や妹がレイプされても黙って見ているしかないなどという事態は、世界史上決して珍しくない。日本人だって昭和二十年に満洲国が崩壊したとき、きわめて多くの女性がソビエト兵に襲われているのである。

 そういうことをきちんと教え、国民の常識とするのが歴史教育の目的である。もちろん改めて言うのも馬鹿馬鹿しいが、それは決して「戦争を絶対的に肯定すること」では無い。むしろ平和を絶対視するあまりに、こうした常識を身につかないように教育することは教育では無く洗脳であり、絶対にしてはならないということだ。

 たとえば日教組の「平和教育」なるものもそれで、戦争の悲惨な面だけを徹底的に強調し本来国際人として知るべき常識を教えず、自分の頭でものを考えられない人間にするのは教育では無く洗脳だ。そしてこの「平和教育」なるものがもっとも滑稽な点は、方法論については彼らが否定してやまない戦前のものとまるで同じだからだ。戦前は逆に戦争の効用だけを教え、戦争に否定的な常識は否定するかすり替えて青少年を「戦争肯定論者」にした。つまり自分の頭でものを考えられないようにするという点で、なんら変わり無いということだ。

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