スポーツ

【ドジャースの「16」から「17」へ】メジャーへの道を拓いた野茂英雄から二刀流の道を拓いた大谷翔平に継承された“夢”

野茂と大谷

野茂から大谷へと継承されるものとは(写真/Getty Images)

 大谷翔平がドジャースの一員となる29年前──。当時26歳で海を渡った野茂英雄の挑戦は、日本球界との訣別から始まった。

「近鉄からの“任意引退”という方法を選んだことで、我々は大バッシングを受けた。それを覆すために、野茂君は『成績を残すしかない』と覚悟を決めたんです」

 そう振り返るのは、野茂の代理人を務めた団野村だ。野茂が近鉄を飛び出した1994年オフは、メジャーに挑戦する方法が確立されていなかった時代。後に石井一久、黒田博樹、前田健太、そして大谷や山本由伸ら多くの日本人が加入するドジャースへの入団は、まさに未知への挑戦だった。団が述懐する。

「私は野茂君の口から『メジャーに行きたい』と聞いて、日米協定や日米の野球協約を調べ尽くしました。そこで、日本で“任意引退”となれば、米国ではFAと解釈されて移籍できることがわかった。NPBから『任意引退選手は海外でプレー可能』とする書面も取れたので、問題はどう任意引退にできるかでした」

 野茂サイドは契約更改で「FAまでの6年間で24億円」の巨額契約を要求。近鉄側が口にした「契約しないと任意引退にする」という台詞に素直に応じ、メジャーリーガー野茂が誕生したのだ。晴れて1995年、ドジャースに入団した野茂は鮮烈なデビューを飾った。

 前年からのストライキで開幕が遅れ、5月2日のジャイアンツ戦。全盛期の主砲、バリー・ボンズら並み居る強打者と真っ向勝負した。初回、2死満塁のピンチで空振り三振を奪ったフォークボールと、90マイル台後半(150キロ台後半)のストレートで5回1安打7奪三振。この日から、海を渡ったドクターKが、「トルネード旋風」を巻き起こしていった。

「ドクターK」と「二刀流」

 デイリースポーツの元編集局長・平井隆司が回想する。

「トルネード投法で三振の山を築き、日本と全米のファンを魅了した。ドジャー・スタジアムには熱狂的な『NOMOマニア』が押し寄せ、先発する日は観客が1万人も増えました。日本人で初めてオールスター戦に出場し、ランディ・ジョンソンとの“日米ドクターK対決”も注目を集めた」

 前年のストライキによってファンが離れつつあった状況で、野茂の人気はメジャーリーグ全体を救ったとまで称えられた。1年目から13勝6敗、236奪三振をあげ、奪三振王と新人王に輝く。以降、史上2人目の3年連続200奪三振を記録し、「日本人はメジャーで通用しない」という先入観を打ち破った。1996年と2001年にはノーヒット・ノーランも達成。後に続くイチローや松井秀喜ら日本人メジャーリーガーの道を拓いた。

 大谷もまた、「二刀流」の道を拓いたパイオニアだ。花巻東高(岩手)からNPBを経由せずにメジャー挑戦を目指し、プロ入り前から「二刀流」を希望した姿を、野茂はこう評していた。

〈彼は『二刀流』という大きな流れを切り拓くトップランナー〉
〈プロである以上、観客に夢を与えることが一番です。これまで誰もできなかったことができている。まさに夢です〉(「Number」2014年10月2日号)

 ドジャースの「16」から「17」へ──確実に継承された〈夢〉がある。

取材/鵜飼克郎

※週刊ポスト2024年2月9・16日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン