パリ五輪の目標は「金を含む複数メダル」
2020年の退任後、鈴木さんは2022年に国際水泳殿堂入りし、同年6月には日本水泳連盟の12代目の会長に就任した。
「日本水泳連盟には『センターポールに日の丸を』と『国民皆泳(かいえい)』という二大スローガンがある。オリンピックで金メダルを目指すと同時に、国民の誰もが泳げるような国にしたいという、要は強化と普及というふたつの柱を指したスローガンです。野球の大谷翔平選手も、2023年の世界陸上の女子やり投げで金メダルを獲得した北口榛花(はるか)選手も、子供の頃は水泳をやっていました。いわばおふたりとも、水泳が育てたアスリート……といいたいところですが(笑)、体の柔軟性やしなやかさ、四肢の使い方を養うのに水泳は適していると思います」
東京五輪では大橋悠依が個人メドレー2種目で金メダルを獲得し、男子の本多灯も200mバタフライで銀メダルを獲得。だが、メダルはこの3つにとどまり、メダル総数は2012年ロンドン大会の11個、2016年リオ大会の7個からすれば、どうしても少ない印象を抱いてしまう。そして、2023年、福岡で開催された世界水泳では銅メダル2個に終わった。
「競泳界に限らず、東京大会が1年延期になったことで、アスリート人生をリスケジュールした選手が多いですよね。現在の競泳界はベテラン選手が頑張ってくれている一方、下(若手)の選手の突き抜ける感が少なかったりして、過渡期だとは思っています。世界水泳で2個の銅メダルに終わって、厳しいことを言われるだけでもありがたいこと。期待の裏返しだと思っています」
しかし、世界水泳後、一部の選手が自身のSNSに「日本水連が選手に対してアスリートファーストではなくなってしまった」と強化体制への不満の声を投稿したことが波紋を呼んだ。
「もちろん、本人とはその後、話をしました。『なんてことを言っちゃったんだろう』って反省をしていましたが、私たちもコミュニケーション不足があったことは認めます。少し、現場任せになってしまったと反省しています。対話をして、選手の要望をすべて飲むわけにはいかないですが、改善できることは改善しようとしています」
7月にはパリ五輪の開幕が控える。
「夏季オリンピックにおいて、日本が獲得した金メダルのうち、4分の3が柔道、レスリング、体操、競泳で占められています。お家芸のひとつだという誇りは持っていますし、これからもお家芸たる成績を残していかないといけない。パリでのメダル数? 強化現場の人間に言わせれば、金を含む複数メダルと言っています。それを僕は信じるし、それを応援するだけです」
パリに臨まんとする選手に掛ける言葉があるとしたら──。
「やっぱり、“Be Eccentric”かな。実はこれ、(取材当日の)昨日、海外で活躍する指導者に教わった言葉なんですが(笑)、トップアスリートというのは、どこか偏屈であり、ユニークな存在で、とにかく自分を持っている人の方が凄いとされる。こだわりを持って貫く執念を大事にして欲しい」
エキセントリックであれ──これは元スポーツ庁長官として全アスリートに贈るエールだろう。
(了。前編から読む)
取材・文/柳川悠二
撮影/槇野翔太