悔しそうにこう打ち明けたのは、九州北部在住の食料品店経営・内山俊彦さん(仮名・70代)。正月7日に行われる、正月飾りなどを焚き上げる伝統行事を、九州地域では「鬼火焚き」と呼ぶ。似たような火祭り行事は全国で1月7日から14日の間、小正月の時期に行われており「どんど焼き」「左義長」などと呼ばれるが、今年、その鬼火焚きが中止になったという。理由はやはり「新たな住人」だった。
「公園の近くが再開発されて、4年くらい前にマンションが建ったんです。昨年の夏、やっとコロナ禍も落ち着いたということで、中止つづきだった盆踊りをマンションに隣接する広場で、以前通り開催しようと決まりました。でも、マンションの自治会が町会にやって来て、住人が迷惑だからやめてほしいと言うんです。それだけでもビックリしたのに、今度は鬼火焚きまで、です」(内山さん)
当初、町会員は新たな住人に「恒例行事なので」と、なんとか開催のお願いをしてきた。すると今度は、自治体にまで苦情を寄せられ、自治体担当者から町会に電話がかかってくるようになったという。
「役所としても、やめてくださいとは言わないんですよ。でも、こういう意見がありますからってことで伝えてくる」(内山さん)
結局、マンションが建って以降の広場では、盆踊りや鬼火焚きだけでなく、それまでは自由に行えていたボール遊びやなわとびなども控えるような案内板が掲示された。そして、広場から子供たちや市民の姿は無くなったのだ。
「新たな人を歓迎しないわけではないんです。でも、先に住んでいる人の環境に口を出したり、物事を思い通りに変えさせるというのは……どうにも納得がいかんのです」(内山さん)
主催者は大きなトラブルに発展する前に自粛
地域の行事をめぐる対立などのトラブル解決に、役所が介入することはまずない。主催は民間であり、イベント実行に際して法律などで規定されていることもほとんどない。住民から苦情が寄せられても、役所としては「話し合いで解決を」という他ないのだ。神奈川県某市の市役所勤務・森永悦子さん(仮名・50代)も頭を悩ませていると訴える。