ライフ

除夜の鐘、盆踊りにも中止要求 恒例行事への「苦情」にどう向き合うべきか

新年を迎え、都内の寺で除夜の鐘をつく参拝客。東京都新宿区(イメージ、時事通信フォト)

新年を迎え、都内の寺で除夜の鐘をつく参拝客。東京都新宿区(イメージ、時事通信フォト)

 古い因習にとらわれず、変えるべきことは変えていこうという動きが社会全体に広がっている。女人禁制だった祭礼に女性も参加できる形を新設したり、動物への負担が軽くなるように配慮をするなど変化が起きているなか、既存の物事との共存を拒否する前提で権利を主張する人たちに振り回されることもある。ライターの宮添優氏が、個人の不快を理由に権利を主張する苦情の前に、沈黙と中止が続く地域の「行事」についてレポートする。

 * * *
 年越しまで間もなく1時間を切ろうとしていた、2023年の大晦日 。千葉県船橋市の住職・吉岡竜栄さん(仮名・60代)は、例年であれば境内にある寺鐘に立ち、集まった参拝客らと共に除夜の鐘を打った。だがその日、鐘の音が聞こえることはなく、事情を知らずにやってきた参拝客がガッカリして帰路に着くばかり。

「ついにうちにも、とうとう来たんです。やはり、静かにしてほしい、うるさいというご近隣の方からの要望がたくさん来ました。今回、除夜の鐘は中止にしました。せっかく大晦日に参拝に来られたのに、みなさん驚いて、そして残念そうに帰っていかれるのが気の毒で忍びない」(吉岡さん)

 吉岡さんはこの数年、年末が近づくにつれ近隣住人から寄せられる10件程度の「うるさい」などの苦情に頭を悩ませてきた。住宅街にあるものの、開山後300年以上経った由緒ある寺院で、大晦日には除夜の鐘を打とうと、数百人の参拝客が列を成すことも珍しくなかったという。

「ご要望は、昔からの住人ではなく、新たに越されて来た方から寄せられることがほとんど。うるさいと怒鳴り込んでくる人もいれば、文化なのはわかるが夜までうるさく耐えられない、という悲痛なものもあり、やむを得ず中止を決定したという次第です」(吉岡さん)

 寺の周囲は古い住宅街で、数年前まではこうした苦情が来ることは想像もできなかったという。だが、従来の地域住民が高齢となり、亡くなったり住み替えのため古い家屋が壊され新たな家が建ち始めると、相当数の住人が入れ替わった。苦情が出始めたのはそれからだった。

役所は、やめてくださいとは言わない

「鬼火焚きだけではない、盆踊りまで中止になった。街が発展するのは歓迎するし、若者が増えるのも素晴らしい。でも、元からいる住人が楽しみにしている行事まで中止にするのは、ちょっと違うんじゃなかろうかと思うんです」

関連記事

トピックス

お笑いトリオ「ジャングルポケット」の元メンバー・斉藤慎二。9ヶ月ぶりにメディアに口を開いた
【休養前よりも太ってしまった】元ジャンポケ斉藤慎二を独占直撃「自分と関わるとマイナスになる…」「休みが長かった」など本音を吐露
NEWSポストセブン
約40年、地元で愛された店がラーメンをやめる(写真提供/イメージマート)
《SNS投稿やグルメサイトの弊害》あっという間に人気飲食店になったことを嘆く店の人たち 問い合わせが殺到した中華料理店は電話を撤去、行列ができたラーメン店は閉店を決めた 
NEWSポストセブン
TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《TOKIO解散後の生活》国分太一「後輩と割り勘」「レシート一枚から保管」の節約志向 活動休止後も安泰の“5億円豪邸”
NEWSポストセブン
大谷翔平の新投球スタイルを分析(Getty Images)
《二刀流復活》進化する“投手・大谷翔平” 「ノーワインドアップ」と「シンカーボーラーへの移行」の新スタイルを分析
週刊ポスト
中山美穂さんをスカウトした所属事務所「ビッグアップル」創設社長の山中則男氏が思いを綴る
《中山美穂さん14歳時の「スケジュール帳」を発見》“芸能界の父”が激白 一夜にしてトップアイドルとなった「1985年の手帳」に直筆で記された家族メモ
NEWSポストセブン
結婚式は6月26日に始まり3日間行われた(時事通信フォト)
《総額72億円》Amazon創始者ジェフ・ベゾス氏の豪華結婚式、開催地ベネチア住人は「億万長者の遊び場に…」と反発も「朝食17万円、プライベートジェット100機貸し切り」で市長は歓迎
NEWSポストセブン
藤川監督(左)の直訴を金田氏(右)が存命であればどう評したか
阪神・藤川球児監督の「練習着にハーフパンツ着用」直訴で思い出される400勝投手・金田正一さんの言葉「大投手になりたければふくらはぎを冷やしたらアカン」
NEWSポストセブン
「札幌のギャグ男」公式インスタグラムより
《特別支援学級編入を決断した当事者の声》「小3の知能で止まっている」と宣告された中学1年生が抱えた“複雑な思い”「母さんを楽にしてやれるって思ったんだ」
NEWSポストセブン
STARTO ENTERTAINMENTの取締役CMOを退任することがわかった井ノ原快彦
《STARTO社取締役を退任》井ノ原快彦、国分太一の“コンプラ違反”に悲しみ…ジャニー喜多川氏の「家族葬」では一緒に司会
NEWSポストセブン
仲睦まじげにラブホテルへ入っていく鹿田松男・大阪府議(左)と女性
石破“側近”大阪府連幹部の府議、本会議前に“軽自動車で45分ラブホ不倫” 直撃には「知らん」「僕と違う」の一点張り
週刊ポスト
国民民主党から公認を取り消された山尾志桜里氏の去就が注目されている(時事通信フォト)
「国政に再挑戦する意志に変わりはございません」山尾志桜里氏が国民民主と“怒りの完全決別”《榛葉幹事長からの政策顧問就任打診は「お断り申し上げました」》
NEWSポストセブン
中居正広氏と被害女性の関係性を理解するうえで重大な“証拠”を独占入手
【スクープ入手】中居正広氏と被害女性との“事案後のメール”公開 中居氏の「嫌な思いをさせちゃったね。ごめんなさい」の返事が明らかに
週刊ポスト