元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏

元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏

「自分の国は自分で守れ」

 では、東アジアはどうなるか。21世紀に入ってから中国は明らかに力を増しているし、韓国、北朝鮮、台湾もそうだ。一方、日本と米国は国力が低下している。つまり、日本に不利な形で安全保障ラインの引き直しを迫られることになる。

 まず米国の中国に対する姿勢でいうと、バイデンは台湾防衛のために軍事関与する姿勢を強く示していたが、トランプは経済重視で基本はディール(取引)をしようとするだろう。習近平(国家主席)との関係も悪くない。

 そこで、軍事的な圧力を低下させる。このような状況で台湾有事が起きると、米国は軍隊を派遣せず、兵器だけ送って「台湾人が自分で中国と戦え」となる。たとえ台湾有事が日本に飛び火することがあっても、「自分の国はまず自分で守れ」ということになる。

 対北朝鮮でも、米国が核兵器を廃棄させることができるかというと、それは無理。金正恩(総書記)の米国に敵対する意思を下げさせるために、トランプは1期目と同じ融和路線を取るはずだ。韓国も保守政権のうちはいいが、リベラル政権に交代すると再び日韓関係の悪化が予想される。しかしそこに米国は関与しなくなる。

 つまり米国が東アジアで安全保障のラインをずっと後退させるということだ。だから、日本は防衛力を強化することになる。

 実は、「対トランプ」において、日本政府の備えは今のところ悪くないと思っている。

 岸田文雄・首相は昨年9月19日の国連総会演説で、「イデオロギーや価値観では現在の国際社会の問題を解決することはできません」と言い切った。民主主義や法の支配、基本的人権の尊重などを価値観として共有する国家との関係を強化するという、それまでの価値観外交と決別することを表明し、第一歩を踏み出したわけだ。

 これは価値観ではなく、ディールで結びつく関係を重視するトランプの考え方に結果的に沿っている。

 ウクライナ戦争についても、殺傷能力を持つ武器供与をせず、復興費を拠出するという日本独自の形が、ウクライナ支援に消極的なトランプの考えと合っている。

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