市郎を一言で言い表すなら”毒舌”かもしれない。嫌われるとか誰かにこう思われるとかに関係なく、言いたいことは言う。ためらうことなく、自分の価値観をもとに意見や感情を自由にストレートに表す。悪く言えば考えずにずけずけと物を言い、よく言えば周りにとらわれることなく率直な物言いをする。テレビにはいつの時代もこういう”毒舌”と呼ばれる人たちが活躍している。
その人たちが注目され人気になるのは、発言が尖っていたり、面白いからだけではない。そこに「カタルシス効果」を感じる人々がいるからだ。
カタルシス効果は心の中に溜まった不平不満などのネガティブな感情を、誰かに話したり運動したりして解放しすっきりさせることをいう。自分の感情や意見と合うものを見たり聞いたりすることでも、その効果は得られるといわれる。時代とともにどんどん窮屈になっていく世の中にうんざりすることも多い友人たちが、ドラマを見てすっきりしたのはこの効果ゆえだろう。
毒舌には後味の悪さが付きまとうことが多いが、そこはコメディードラマだけあり毒舌といっても土台には笑いがある。阿部さんの、大げさなほどリアクションの大きな演技が毒舌を笑いに変えていく。宮藤勘九郎さんの脚本も、市郎の言動を一方的に押し付けることなく、相手を不快なままにはさせない。話し合い、理解を求め、妥協点を探り、その過程をミュージカル的な演出にして笑いを誘う。
下手に物を言えばSNSですぐさま炎上し、コンプライアンス違反だと問題視され、昔のように歯に衣着せず物を言う毒舌を聞かなくなった今。あれはダメ、これはダメと縛りの多い停滞した空気をかき回す阿部さん演じる市郎は、令和の新しい毒舌だ。