「バブル崩壊」の象徴といわれた山一証券の自主廃業(時事通信フォト、1997年11月24日)

「バブル崩壊」の象徴といわれた山一証券の自主廃業(時事通信フォト、1997年11月24日)

 ハンディタイプの最初の携帯電話をいち早く持ち始め(アイロンみたいなやつですね)、いつもレノマのセカンドバッグを小脇に抱え、アルマーニのスーツはダブルブレステッド。ヴィトンの財布には、「マハラジャ」の店内でのみ使用できる紙幣がぎっしり詰まっていた。愛車はポルシェ924。中古で買ったそうだ。BMW(あの頃、なぜかベンベと呼ばれてましたね)はみんな乗っているから嫌だといっていた。スキーシーズンの苗場にもポルシェで行くという話に、女の子たちはワンレンをかきあげながら「すごーい」とチヤホヤした。

 明日はもっと楽しいことが起こるに違いない。私たちはそんな空気の中で生きていた。不動産の価格は永遠に上がり続け、世界の名画は次々と日本に集まってくる、何の疑いもなくそう信じていた。金がぐるぐると周り、その遠心力でまた金が生まれる。遠心力の外にいるはずの若いだけが取り柄の女の子でさえ、自分たちもぐるぐる周る円の真ん中にいるような錯覚を起こしていた。それがバブル時代である。

 1985年12月、日経平均株価はそれまでで最高値3万8915円となった。
 
 当時の大蔵省が総量規制の通達を出したのはそれから三ヶ月後の1990年3月。ここから不動産への融資が鈍り始め、負の連鎖が始まるわけだが、世間一般にそれが到達するまで多少のタイムラグはあった。世の中はまだ浮かれていた。「マハラジャ」や「キング&クィーン」は相変わらず、私たちの溜まり場だった。しかし、いつの間にかMくんを見かけることは少なくなっていった。

 記憶力に自信はあるが、Mくんを最後に会ったのはいつだったか、どうしても思い出せない。彼と知り合うきっかけになったカップルはもう別れていた。

 街の活気もなくなり、私もディスコから足が遠のいていた。誰かの誕生日で久しぶりに「キング&クィーン」に集まった時、Mくんの話題になった。会社は辞め、誰も行き先を知らず、携帯電話の番号はもう使われていないという。コンクリート打ちっぱなしのマンションの駐車場にはポルシェ924が残されていたそうだ。人もまばらなフロアではすっかり時代遅れとなったユーロビートが大音量でかかっていた。

関連記事

トピックス

遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
《スクープ》“連立のキーマン”維新国対委員長の遠藤敬・首相補佐官が「秘書給与ピンハネ」で税金800万円還流疑惑、元秘書が証言
NEWSポストセブン
2018年、女優・木南晴夏と結婚した玉木宏
《ムキムキの腕で支える子育て》第2子誕生の玉木宏、妻・木南晴夏との休日で見せていた「全力パパ」の顔 ママチャリは自らチョイス
NEWSポストセブン
大分県選出衆院議員・岩屋毅前外相(68)
《土葬墓地建設問題》「外国人の排斥運動ではない」前外相・岩屋毅氏が明かす”政府への要望書”が出された背景、地元では「共生していかねば」vs.「土葬はとにかく嫌」で論争
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
《雅子さま、62年の旅日記》「生まれて初めての夏」「海外留学」「スキー場で愛子さまと」「海外公務」「慰霊の旅」…“旅”をキーワードに雅子さまがご覧になった景色をたどる 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
《悠仁さまの周辺に緊張感》筑波大学の研究施設で「砲弾らしきもの」を発見 不審物が見つかった場所は所属サークルの活動エリアの目と鼻の先、問われる大学の警備体制 
女性セブン
清水運転員(21)
「女性特有のギクシャクがない」「肌が綺麗になった」“男社会”に飛び込んだ21歳女性ドライバーが語る大型トラックが「最高の職場」な理由
NEWSポストセブン
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン