日本弁護士連合会が2018年に実施した調査によると、被害者に支払われた金額は、裁判などで認められた賠償額のうち、殺人事件で平均13.3%だった。
ハオさんのように全く支払われないケースも多い。これでは遺族にとって、判決文はただの「紙切れ」同然で不公平だと感じるだろう。そこで犯人側に不動産などの財産があれば、ハオさんのように差し押さえでもしなければ、気持ちの収まりがつかないはずだ。そこには執念すら感じられる。
「すべての財産がなくなっても澁谷のマンション差し押さえはやらないといけない。犯人に対して納得できないから。犯行も認めないし、謝罪もしない。それを許すことはできない。澁谷が所有するマンションの部屋は賃貸に出されているから、刑務所にいてもお金が入って、楽な生活ができる。それはおかしい」
二本松の旅館は営業許可の取得に向けた準備が進み、再開まであと一歩のところまできた。
そして桜が咲き始める今年もまた、ハオさんは福島から我孫子の現場へ足を運び、リンちゃんへの祈りを捧げる──。
◆取材・文 水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ノンフィクションライター。1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒。新聞記者、カメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを中心にアジアで活動し、現在は日本を拠点にしている。11年に『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。